氷帝中心[SS]
□純潔未遂〜強姦魔は突然に〜
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「長太郎、西園寺さんがお見えになったわよ、お迎えに上がって」
「はーい」
鳳長太郎はリビングのソファから起き上がると、扉の外へ飼い猫が逃げないように注意を払いながら、玄関の扉を開ける。
「お久しぶりです」
「え、っと……長太郎くんかい?」
「はい」
目の前の大柄な男は、驚いた様子で鳳を僅かに見上げる。
それも無理はなく、最後に会った時から俺は遥かに背が高くなっているのだ。
「どうぞ、中へ」
「参ったねぇ、あの長太郎くんがこんなに大きくなるなんて」
あっはっは、と豪快に笑う西園寺をリビングへと招くと、母はお茶を淹れた湯呑みをテーブルへ並べている所だった。
普段は使わないお客様専用の湯呑みに注がれたお茶を、西園寺は受け取ると、ズズズと下品な音を立てて口に含む。
「うむ、美味しい」
「それは良かったです。……もうすぐ主人が帰ってくると思うんですけど、連絡は無いし、全然帰ってこないわ……」
お父さんが西園寺さんを呼んだくせに……。
長太郎はそう心の中で思ったが、あえて口に出さなかった。
この男、西園寺秋彦は父の古くからの友人だそうで、父の友人の中でも最も交友関係が長く、それと同時に音楽仲間だと昔に聞かされていた。
長太郎と同じテニス部の部長の跡部景吾には及ばないが、西園寺も中々の金持ちである。
随分と贅沢な暮らしをしているのかは、そのでっぷりとした体を見れば一目瞭然と言ったところだ。
長太郎が中学生になるくらいまでは、彼はよく家に遊びに来ていたり、ごく稀に西園寺の豪邸へ父に連れていかれたりしたものだ。
「あ、電話。……もしもし、……えっ!?夜まで帰れない!?」
血相を変えた母が握る携帯電話の通話相手は、おそらく父だろう。
母の反応を見ているだけで、父が今夜帰って来れないという事を察してしまう。
「本当に帰って来れない?……私も用があるのに、困るわ。長太郎しかいないんじゃ……」
「おや、奥さんにも何か用事があったのかな?」
「え、ええ……。実は仕事先の会があって、もうすぐ出ないといけないんです。帰って来れるのは深夜だろうし……。すみません、せっかく来ていただいたのに」
「いいんですよ。あの、迷惑ならいいんですけど、やつが帰って来るまでここにいてもいいですか?」
「全然構いませんよ、夕食も用意しておくので、西園寺さんが良ければ」
目の前で着々と進んでいく会話を、長太郎は不満そうに聞いていた。
正直なところ、俺は西園寺さんが苦手だ。昔から何度も交流はあったとは言え、その度に西園寺から感じる、舐め回すような視線が、幼い頃から嫌いだった。
いつだって父は、そんな西園寺の視線に気づかず、呑気に会話を続けていたばかりで。
「という事だから、あなたも急いで帰ってきてね、……うん、じゃあまたね」
「やつは何て?」
「なるべく早く帰る、ですって。長太郎、西園寺さんに失礼なことしちゃダメよ」
「……うん」
「はっはっはっ、今まで何度も会ってきたけど、長太郎くんが私に失礼したことなんて一度も無いですよ」
また、舐め回すような視線……。西園寺の視線は俺の足のつま先から頭の先まで、ゆっくりと時間をかけて捉えていく。
そして、再び視線が下がったかと思うと、西園寺の視線は、俺の股間部一点に集中していた。
(ど、どこ見てっ……!)
「今日はよろしくね、長太郎くん」
「は、はい。よろしくお願い……します……」
目を合わせるのが怖くて、つい目線を逸らして会釈をしてしまう。
一緒に暮らしている祖母は、友人と京都旅行に行ってるし、姉は勤め先の研修旅行で数日間帰って来ない。
そのため、今日は夜までこの男と二人きり……。その事実が、長太郎の心を酷くいたぶった。