甲斐

□猫の額程の心
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「んー!良い天気!」


目一杯伸びをした所で再び空を見上げる。

ここ何日か天気が悪い日が続いていたため、
雲一つ無い青空に自然と心が弾む。

これなら、洗濯物も良く乾くだろう。


「折角だし、城下にお団子の材料になりそうなもの探しに行こうかな」


たまにはいつもと違うお団子を
と思いあれこれ考えていく。


「そろそろ梅の実が出る頃だろうから、潰して白あんと混ぜて・・・」

「みゃー」

「?」


ふと、さわやかな風に乗って、どこからか猫の鳴き声が聞こえてくる。
あたりを見渡すが、それらしき姿が見当たらない。


「・・・気のせいかな?」

「みゃー」

「!」


最後の1枚を持ち上げたと同時に背後で、先程よりも近い位置で鳴き声が聞こえてきた。


「みゃー」


振り向くと、見慣れない灰色の縞の子猫がちょこんと縁側に座っていた。


「どうしたの?迷ってきちゃったの?」

「みゃー」


洗濯物を干しながら話しかけると、答えるように鳴いた。


「うーん・・・全く心当たりはないし・・・とりあえずあとで才蔵さんに相談してみよ」


才蔵さんは一刻程前に幸村様と出かけていった。

そろそろ戻ってくる頃だし、それまでこの子にごはんをあげよう。

そう思い手を伸ばすと、猫はビックリしたのか、廊下を走って行ってしまった。

伸ばした手にかすかに痛みが走る。


「っ!!!まって!!!」


慌てて追いかけると、才蔵さんの部屋に飛び込む姿が目に入る。

部屋に入ると、猫は部屋の真ん中で先程と同じようにちょこんと座っている。

今度は驚かせないように、膝を着いて少し屈みながらもう一度話しかけてみる。


「さっきは驚かせてごめんね?お詫びにご飯あげるからこっちにおいで?」

「みゃー」

「やっぱりだめかぁ・・・」


手を広げてみるが、猫はその場から動こうとしない。


「困ったなぁ・・・あれ?」


ふと猫の首にある飾り紐に紙が括り付けられていることに気づく。


「何やってんの?」

「っ!才蔵さん!」


伸ばしかけた手を慌てて引っ込める。

いつの間にか才蔵さんはワタシの背後に立っていた。


「才蔵さん!おかえりなさい!」

「ん。ただいま。・・・で、何アレ?」

「なんか迷い猫らしくて・・・」

「・・・その手の傷は?」

「あ、先程あの子を抱き上げようとしたら、逃げられちゃって多分その時に・・・」

「ふーん・・・なのに、懲りずにまた抱き上げようとしたんだ?」

「!懲りずにっていうよりも、無意識というか・・・紐に付いている紙が気になってしまって・・・」

「紙?」

「はい・・・」


部屋に入った才蔵さんは、まっすぐ猫の首に付いた紙に手を伸ばす。

ワタシの時と違い、大人しくされるがままになっている。

どうやら、紙は文だったらしく、才蔵さんは広げて読み始める。

その足下で構ってくれと言わんばかりに猫がすり寄っている。

「にゃー」

「うるさい」

「・・・」


先程から才蔵さんの纏う空が冷たい、と言うかぴりぴりしている。出先で何かあったのだろうか。


「・・・才蔵さん」

「さっきはただ幸村の買い物に付き合ってただけ」

「・・・そうですか」


いつもと変わらない口調だけど、纏う空気はどんどん冷たくなっていって・・・

今はここに居ない方がいいかもしれない。


「どこいくのさ?」


邪魔にならないように静かに部屋を出ようとした所で才蔵さんに呼び止められる。


「えっと・・・庭にたらい置きっ放しだったので片付けてこようかと・・・」

「団子」

「え?」

「団子食べたい」

「!今すぐ用意しますね!」


少なくとも、ここに居てはいけないということではなのだろう。


「ん」


相変わらず纏う空気は冷たいが、こちらを向いて少しほほえみを浮かべながら
相づちを打ってくれる才蔵さんを見るだけで、自然とほほが緩む。

少しでも一緒に居たくて、私は急いで庭に向かった。
 
 
 
 
 
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