短夢
□【ポケモン】おかしいNとトレーナー
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「運命の赤い糸って知ってる?」
普通のあかいいとなら……バッグを探ろうとしたら違うと言うように苦笑いされた。
「道具じゃないのか……確実にメロメロを移すみたいな」
「あかいいとは確率じゃないだろう」
それもそうか。じゃあなんなんだと聞けばNは空中を摘み、そのまま左右に揺さぶってさもここにありますと主張。
「これはボクの糸」
うん。
……いやうんじゃなくて。
ポケモンと直に言葉で会話できるとか、トモダチがどうとか、プラズマ団の王様だとか前々から不思議な奴だとは感じていたがここまでとは。そもそも薄暗く誰もいない森の中でこんな会話始めてきた所がもうお察しだよな。
「でもこの糸の先で結ばれている人間はいないんだ」
「ポケモンに結ばれてるとか言うなよ」
「そして名無しさんは赤い糸すら付いていない」
「なんだと」
俺はこれから旅先で出会った同い年の女の子と紆余曲折を経ず普通な普通で普通に幸せな家庭を持つという目標があるのに。
「だからね」
すいすいっと俺の小指にちょうちょ結びのジェスチャー。おいおいなんだよ可愛いことしやがって。
「お前女の子にモテるくせに皮肉かよ」
世の中平等じゃないの世知辛い。Nに倣って小指の糸を解くジェスチャーをしてサヨナラだ。
と思ったのに
ある。
何がと言われれば困るのだが、確かに俺の指先は何かを摘んでいる。
恐ろしくなってNに繋がっているであろう先を、手全体で掴もうとするが何も感じない。しかし小指に触れば皮膚以外の感触。
「な……」
「名無しさんは糸の先に触れない」
「どういう……っ」
目の前Nは俺の小指のギリギリから、まるで捻れを伸ばすよう引いて顔に近づけた。
見たくない。しかし小指に感じる違和感に目を向ければ、小指は引っ張られるようにNの方へと伸びている。
ヒッと悲鳴をあげてしまうのはしょうがないだろう。だってこんなことできるのはエスパータイプのポケモンくらい、しかも見渡す限りではそんなポケモンここにはいないのだ。
逃げなければ。
そう本能が訴えた時、Nは見越していましたとばかりに笑い、糸を両手に持った。
「なんで……」
なんで手を頭上で輪を作って降ろして
「名無しさんがボクから離れれば糸が首を絞めるだろうね」
なんでそれを首で留めて
「でも大丈夫。ボクがそうならない距離を保つように動こう」
なんで固定するように強めに引いて
「でも……名無しさんが意図的に離れたら」
なんで首に糸が巻かれたような痕が見えるんだよ。
「キミにとってトモダチでも構わない。ボクから離れないでね。名無しさん」