短夢
□【ヒロアカ】オリジン組と転勤族
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「へえ、また転勤なんだ」
電話越しに何度したかこの会話。俺の父親は明らかに頻度がおかしい転勤族で、小さい頃は家族一緒にいたいと色々な場所へ連れていかれた。1年の間に同じ県ぐるぐるした思い出もある
小中は県立市立なら手続きだけで入れるが、高校は入試の関係もあるし、なにより良い歳だと一人暮らしを始めた俺にとって親の転勤はあまり関係ない話になったが
『次は静岡に行くの。静岡なんて何年ぶりかしらね』
「初めて静岡に行ったのは小学3年生くらいだっけ。クラスメイトの中に左目付近火傷を負っている子がいて、その子が気になって遊んでた事もあったな」
『あんた、遊ぶ為にその子の家に誘いに行ったのに頬腫らして帰ってきた時はびっくりしたわよ!』
そう。その子の父親がすげー厳しい人で家の近くで怒声が聞こえたとき、めちゃくちゃ正義感の強い少年だった俺は無断で家に入ってその子庇って殴られたんだ
『名無しさんが初めて友達と大喧嘩したのも静岡だったわね』
「あれは一生に一度の大喧嘩だと思ってる」
頬を腫らした翌年、同じ静岡だが転校した俺が輪に入れてもらったのは個性が爆発でその他スペックがスゲーガキ大将のいる集団。そいつがいつも後ろを歩く無個性のチビをいじめるからもっと優しくしてやれって言ったらマウント取り合っての殴り合いになったんだっけ
皆仲良くしてくれたが、ほぼ1年毎に転校する俺は毎回行われる行く先でも頑張ってねのお別れ会が面倒になって小学校に上がってから何も言わず転校するようにした為、その時友達だった奴が今どうしてるかなんて知らない
元気にしてるのかなとは思うけど
『だからごめんね〜入学式行けなくなって』
「いいよ。高校なら来ない親もいっぱいいるだろうし」
『初登校の制服姿写真に残したかったのよ〜!学校出る前に自撮り送って!』
「えぇ……恥ずかしいからやだよ」
『何組かは出たの?』
「出た。1Bだって」
『倍率凄い所に受かったんだからだらしない理由で辞めるなんて言わないでよ?』
「言わねぇよ。もう切るな」
。。。
ごめんなさい母さん俺この学校辞めたい
倍率170だとか正直入試の実技死ぬかと思ったとか色々乗り越えて来たからこなくそ精神で来たけど今は挫けそうです
別に授業について行けない訳じゃなくてもっとこう、強いて挙げるなら友人関係的な
「久しぶりじゃねぇの名無しさん」
「名無しさんと会うのも7年ぶりか」
高校始まって数週間目、校舎でA組のイケメン2人に両側から壁ドンされるとか少女漫画ならこれ以上無いシチュエーションなんだろうけど、いかんせん俺男だしこのイケメン2人より背が高いしどちらかと言えばカツアゲに見える
「ど、どちら様でしょうか」
「はぁあああ!?ふざけてんのかテメェ!お前にキズモノにされた上に黙って逃げられた爆豪勝己様だ!」
「……キミが気になると近づき人一倍親密になった所行方不明と告げられた轟焦凍」
「ただ転校先を伝えなかっただけだろうが!やめろその言い方!」
「覚えてんじゃねぇかよ!!」
あっやべ
メンチ切る爆豪から逃げようとする俺の右腕を轟が抱き、正面に来た爆豪に足の間に足を入れられ完全拘束されてしまった
「か、かっちゃんも轟くんも止めなよ!」
そんな俺達の間に入り大丈夫?と声をかけるコイツは無個性のはずじゃ……?なんでここに入る事ができて……
「久しぶりだね名無しさんくん僕の事覚えてる?覚えてなくても仕方ないよね名無しさんくんが同じ学校にいたの7ヶ月だったんだから」
ギリギリギリギリ
独り言のように呟くコイツはまるで一言言う度に力を入れているようで、掴まれた左手が悲鳴を上げるほど強く握られている
「み、どりや、手痛」
「昔は名前で呼んでくれたのに」
声をかけても揺れること無く俺を見続ける緑谷が怖い
「おいデク邪魔すんじゃねぇ。俺の案件のが先だ」
「待て爆豪。先に裏切られたのは俺だ」
「なんだ、かっちゃんも轟くんも同じ理由だったんだ」
緑谷の手が腕から手首へ
轟の手が腕から胸へ
爆豪の手が首へ
誰かが力を入れれば俺は死ぬ
「名無しさんくん、同じクラスになれなかったのは残念だけど……これからよろしくね」
なんだ、なに、なにをどうよろしくすればいいのか
脂汗が止まらない俺に目が笑っていない3人
転校を伝えた時の残念そうな顔が面倒だとか行先教えて手紙出されるのが嫌だとか人間関係疎かにしたのがそんなに悪かったですかねこれは罰なんですかね
目眩を起こす中、歪んだ笑い声を小さく上げた緑谷に俺の高校生活は終わりだと悟った