短夢

□【千銃士】カトラリーと見習いくん
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※カトラリー親愛ストーリーの6話近くの時間軸なのでネタバレあり。
※レジスタンス寄りの人間。近くの街に住み実家のパン屋で働いてる。



昼も過ぎ気温がぐっと上がる午後。室内に漂う鉄と炭、その他もろもろの匂い。いつもなら気にもとめない慣れたものの中に異質な匂いが混ざっていた。

「……」

スっと赤い汁を掬いスっと口の中へ。物音は無し。

「……お前なんでこんな所で飯食ってんの」
「別に」

うわ感じ悪い。2人きりの室内きまずくならないようにしようとか無いのかね。
そもそもなんで俺とカトラリーが修理所で飯云々の話になっているかと言えば答えは簡単。ガンスミスとして作業してる俺の背後でカトラリーが飯を食い始めたからである。匂いからトマトとオニオンのスープな事が分かり俺の腹を減らせた。

「今日の昼飯はスープとパンか?」
「あとサラダと……食べたんじゃないの」
「食ってな」

い。
あと1音発音しようとした俺の背後でカトラリーが勢い良く立ち上がったためその音は飲み込まれた。

「ご……ごはんは大切だよ」
「お、おう」
「なんで食べてないの」
「俺レジスタンス基地と街を行き来してる半端者だから大事な食料貰えねぇよ」
「でも、こうやって武器直したりして働いてる」

そりゃそうだけどやっぱ悪いって……家庭の事情があるとはいえ本気でやってる奴らの中に休日しか来れない中途半端が混じらせて貰ってるだけでありがたいのに、苦しくて家からパンのひとつも持ってこれない俺は笑って許してもらってる立場なんだ。

「カトラリーだからわかるよ。食事ひとつで士気に関わる」
「……その手は」
「た、食べかけだけどこれあげる」

スープ皿と縁に乗った小さくなったパン。トマトの赤いスープが入ったスプーン差し出すように俺に向けるカトラリーにため息しか出ない。

「作戦に出る大事な戦力から貰えるか」
「だって昨日の夜からここにいてお腹減ってないわけが無い」
「減ってないわけなくない」
「減ってないわけなくなくない!」

これは収集がつかないやつだ。観念して口を開ければそっとスプーンを差し込まれ、口の中にトマトとオニオンの味が広がった。うまい。明らかにホッとした顔のカトラリーには悪いがもういらない。

「早く口開けて」
「もういらない」
「……開けて!」
「あだっ」

このやろ……!前歯にスプーン当てたら痛いに決まってんだろ……!!

「分かった食べた。さっき食堂で食った」
「嘘つきは嫌い」
「ほんとほんと」
「前歯に折られたくなかったら口を開けて。変に心配させないで」
「……今のお前の気持ち、メディックさんも同じだろ」

食堂で食わない事よく指摘されてんだろ。そう言えばカトラリーは気まずそうに"ボクは食べてるから……"と言いながら俯いた。
少し気まずい空気が流れる。俺は気にしてないからと伝わったか分からないが、何事も無かったように作業を再開すればカトラリーも食事を再開した。


。。。



「聞いて。この前マスターと食事したんだ」

あれ珍しい。
先日のやり取りをして数日、仕事が休みになったので基地で作業していたらカトラリーが入室と同時にそう言った。

「どうだった?」
「……楽しかったよ」

食事中なに話したかとか食後のコーヒーとか、思い出しながら話すカトラリーに頬が緩む。これからはたまに食堂でマスターと食事するなんてすごい進歩じゃん。
修理所の中でも奥の誰も近寄らないここで飯食うよりずっといい。そのまま食堂で食うのが定着するんだろうなと想像した。

「こんな砂とほこりまみれの場所で飯食うなんて不衛生すぎたしな。もうやんじゃねぇぞ」
「嫌だけど」

なんだと。思わず作業している手を止めて正面からカトラリーを見れば大きめの四角いトレー。

「2人分も食べるなんてカトラリーってば食いしん坊さん」
「しばくよ」
「えっ怖い」

ボクも頑張ったからキミも。なんて言われたら断れないというか、断ったら弱虫みたいになるじゃんか。

「……明日、恭遠さんに聞いてからな」
「うん。一緒に食べよう」

いやなんで食事が許される前提で……まあ、なんとなく楽しそうだからいいか……。

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