新選組に飼われたいネコ

□8・誰もいない雨の日
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とってもおかしな一日があった。
その日は空一面、分厚く重たい雲に覆われていた。
それでもボクはいつもと同じように寝床から飛び出した。
川へ行ったり町中を散歩したり、気ままに遊んで過ごすんだ。

昼を過ぎた頃、みんなの顔が見たくなって屯所へ戻ったよ。
でもおかしなことに誰もいないんだ。
みんな揃って出かけるなんて珍しい。

ボクは前川邸の屋敷内を隈なく探した。
縁の下から厠の中まで覗いたのに人っ子一人いない。
次に壬生寺の中を探して、それからみんながよく歩き回る道を探した。
何でそんな道を知ってるかって?
ボクはたまにみんなの後ろをついて歩くんだ。
だからどの道をお散歩するのか知ってるよ、揃いの羽織で恰好いいんだから。

ボクは遊んでいた河原まで戻ったけど、さっきと一緒で誰もいない。
おかしいなぁ。

ボクは探すのを諦めた。
このまま河原で遊びたい。一日中遊んだって楽しい場所なんだ。

でも今にも雨が降り出しそう。朝から広がっている灰色の雲が、黒く変わっている。
雨は好きじゃないから急いで戻らなくちゃ。

ぽたぽた落ち始めた雨に負けないで、ボクは壬生に戻った。
やっぱり前川邸はもぬけの殻。
仕方なく八木邸へ向かったけど、こっちも誰もいない。
あぁあ、残念だなぁ。

ボクはそのまま八木邸の縁の下に潜り込んだ。
いつもは土方さんや沖田くんのそばで眠るんだけど、誰もいないし、濡れるのはもう嫌だもの。

湿った土の上でボクは鼻をひくひくさせて辺りの匂いを探った。
八木邸に顔を出すと、美味しい魚の干物を貰える時があるんだ。
大きな腿の上にボクを抱いてくれる人もいる。
干物と温かい抱っこが恋しいなぁ。今は雨の匂いしかしないや。

淋しくなったボクは丸まったまま外を覗いていた。
薄暗い場所から見える雨の庭先。
ぼんやりした景色を見ていたボクは、うとうと眠くなってしまった。
もともと暗い一日だったから、夜が早くやってきたような気がしたんだ。

ぽつん、とん、ぴちゃん。雨は強くなっていくけど、心地よい子守唄を聞かせてくれる。
雨音も悪くないなぁ。
ボクはいつしか眠りに落ちていった。
 
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