新選組に飼われたいネコ

□19・引っ越しても、好きな壬生
2ページ/2ページ


クロさんのことを案じていたら、たくさんの声と足音が近付いて来た。
荷車を押す音も聞こえる。
みんなが来たんだ、がやがやと楽しそう。

出迎える為に動く沖田くんと共に、ボクも通りを覗く。
すると、斎藤さんのそばで、塀の上を歩くクロさんを見つけた。

ボクは沖田くんの腕の中から飛び出て、クロさんを出迎えた。

「クロさん!」

「沖田君と一緒にいたんだな」

互いに安心したボク達は、並んで塀の上を移動した。
斎藤さんが横目でボクらを見ていたけれど、話に夢中なボクは気付いていなかった。

「先に来ちゃったんだ、心配させてごめんねクロさん」

「沖田君と出て行ったと斎藤さんが教えてくれたよ。お前も来るか、ってな」

「斎藤さんは親切だね。新しい屯所、物凄く大きいんだよ!広すぎてボク落ち着かないかも」

「新選組がどこで暮らそうがオレには関係ないけど、ひーにとっては一大事なんだろう」

「うん、みんなのそばにいたいもの。急にいなくなったらボク、町中を探しちゃうよ」

起きてもいない話にボクが嘆くと、クロさんは呆れたように笑った。


新選組のみんなが大きなお寺、西本願寺で生活するようになったけれど、ボクやクロさんはしょっちゅう壬生まで遊びに出かけた。

壬生が大好きなのはボクらだけじゃなかったみたいで、隊士のみんなも壬生で見かける。
沖田くんもたまに遊びに来ているよ。

なぁんだ、今までと変わらないな。
ボクは大きなあくびをして、境内にあるお気に入りの塀の上で、丸くなった。
お日様が良く当たって気持ちいいんだよね。
塀の上にいれば寝ている間に勝手に触られることもないし、安心して過ごせる。

すっかり気を緩めてウトウトしていたボクだけど、突然轟音が響き渡り、跳び上がった。

何が起きたんだ。
塀から落ちそうになったボクは、いっそ地面に下りようと、その場を蹴った。
塀の上は目立つから、地面で体を伏せて周りを見回したんだ。

そうしたら、見覚えある人達が集まっていた。
新選組のみんなだ。
斎藤さんもいるぞ。

何が起きたの、見れば大きな鉄の塊がある。
輪がついて、まるで俥みたいだ。

怖々と体を低くして斎藤さんに近付くと、斎藤さんはボクに気付いて眉をピクリと動かした。
何をしているの、訊ねようとした時、またあの轟音がした。
衝撃もある。体が震えて、ひげがピリピリする。
ボクは思わず縮こまり、前足で耳を押さえた。
耳に入る音が減ると思ったんだ。

そんなボクを見て、斎藤さんが忍び笑んでいる。

「猫も耳を隠すのか。まぁ驚くか、この音と衝撃では」

「なぁん!」

当たり前だよ。
背中を伸ばして斎藤さんに訴えようとしたら、また轟音がした。
壬生寺の人達が出てきて大騒ぎをしている。
そりゃそうだよ、本堂の瓦が振動で落ちて大きな音がした。
鉄の塊が鳴らす音とはまだ別の衝撃音だ。

「安心しろ、これは大砲の調練だ。危険はない。調練で使っているうちはな」

「なぅん・・・」

本当に、危なくないの。
ボクには怖い物としか思えない。
現に屋根から瓦が落ちて、住職さん達が慌てふためいているよ。
お世話になっているのに、こんな事して怒られちゃうんじゃない。
心配になったボクが不安を訴えると、斎藤さんは腕組みをして遠くを見つめた。

「実戦で向けられては、危険しかないがな」

「にゃぅ・・・」

低い声で呟いた声は、他の人間の耳には届いていないだろう。
やっぱり危ないものなんだ。
これを見たら逃げるようにしよう。

斎藤さんが大砲と言った鉄の塊にお尻を向けて、ボクはそろそろと逃げ出した。
轟音と衝撃に「おぉ」と喜びの声を上げる隊士のみんなが、ボクには不思議に思えた。
 
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ