新選組に飼われたいネコ

□20・沖田くんの風邪
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土方さんがあんな顔をするなんて、沖田くんはどうしちゃったんだろう。

沖田くんと遊べない日が続いたある日、聞いたこともない激しい咳を聞いた。
どうしたの。
あまりに驚いたボクは、沖田くんの部屋の障子を開けて入り込んでしまった。
沖田くんは布団の上で座り込んでいて、向こうを見たまま振り返ってくれない。

そぉっと近付こうとしたら、

「来るな!!」

ボクは怒鳴られてしまった。


とぼとぼと沖田くんの部屋から離れたボクは、この大きなお寺で一番大好きな縁側に丸くなった。
遠くへ行く気分にもなれないから、気持ちの良いこの場所で寝てしまおうと思ったんだ。

うとうととし始めた時、誰かが近付いて来た。
逃げる気にもなれない。
でも逃げなくて大丈夫だって分かったよ、近付く匂いは沖田くんだったから。

「ごめんね、ひーくん」

そう言って、沖田くんは丸くなったボクの背中を撫でてくれた。

「驚いたよね」

何か言葉を続けようとした沖田くんだけど、コホンと咳が出て、ボクの背中にあった手も離れてしまった。

「なぅん」

ボクは立ち上がり、今度はボクが沖田くんを撫でてあげた。
だんだら模様に見えるボクのしっぽで、沖田くんを撫でてあげたんだ。

「ありがとう、君のしっぽは気持ちがいいね」

当然だよ、いつも毛づくろいしているんだから。
ボクがえっへんと胸を張って尻尾を動かすと、沖田くんがにこにこしてボクの頭に触れた。

「とても綺麗だよ」

ボクの毛並みを褒めてくれた沖田くんは、にこにこしていると思ったら、大きな溜め息を吐いた。

「僕はね、ちょっとした病気なんです。多分猫の君にはうつらないね。みんなには内緒だよ、心配しちゃうから」

安心してよ、だってボクの言葉なんてみんなに通じないんだもん。

でも・・・本当に病気なの?
ちょっとした病気なら、すぐに治るんだよね。

病気や怪我はね、ボク達はこうやって治すんだ。

ボクは沖田くんの手を舐めてあげた。
こうすると清潔になるんだよ。
一生懸命ぺろぺろ舐めていると、くすぐったかったのか、沖田くんがくすくすと笑った。

「ありがとう、ひーくん、気持ちがいいよ。でもあまり笑うと咳が出ちゃうから、もう大丈夫だよ」

そっか、最近大きな声で笑わないのは、咳が出ちゃうからなんだね。
子供達と遊ばないのも、それが理由なんだ。一緒に遊ぶと笑わずにはいられないものね。
早く治してまた一緒に走り回って、たくさん笑おうよ。

ボクは「ちょっと待ってて!」と伝えて、ある目的を果たす為、一目散に走りだした。
いい物があるぞ。
沖田くんを待たせちゃいけないからね、必死に走ったよ。


暫くして戻ると、沖田くんは縁側で日向ぼっこをしてボクを待っていた。

お腹が痛いときはこれをたべるんだよ。
ボク達のお薬になる草を、沖田くんに分けてあげたんだ。
土方さんのお薬が効かないなら、ボク達のお薬が効くかもしれないでしょ。

「あははっ、もしかして薬草なのかな。君は賢いネコだね、ありがとう。でもこのままじゃ僕は食べられないので、後で頂きますね」

ボクに許しを得るように首を傾げて、沖田くんは草を懐に入れた。

おもむろにボクを抱えた沖田くん、さっき見た土方さんの笑顔みたいに、淋しそうに笑ったんだ。

思わず沖田くんのほっぺを舐めてしまった。
沖田くんは笑うのを堪えて、「もう大丈夫」と言って、ボクがほっぺに届かないよう、ボクを胸の前でしっかりと抱きしめた。
温かいこの場所で、ボク達は暫く日向ぼっこをして過ごした。
 
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