新選組に飼われたいネコ

□23・黒い衣の二人
2ページ/2ページ


この日もおかしな連中が斎藤さんをつけ狙っていた。
塀の上から見ていると、隠れて寄って来るさまが良く分かる。
見えないはずなのに存在に気付き、相手の出方を窺いながら、戦いやすい場所へ歩いて行くのが分かる。

相手は誘いこまれていると知らず、狭い路地にまで追いかける。
そこで待っているのは抜き身を手にした斎藤さん。
顔を知っていたのか、殺意を感じていたのか、相手が本気で命を取りに来ていると分かっていたんだ。

斎藤さんの姿を見るなり飛び込んでいく人間。
あとはもう、猫のオレには何とも言えない時間だ。
少しだけ距離を取る。
見ていて楽しいものじゃないが、不思議と斎藤さんが刀を振るう姿は嫌じゃない。
斬られた相手は痛そうだ。そのまま死んじゃうんだから痛いなんてもんじゃ無いだろうが。

どうでもいい事を考えていると、事を終えた斎藤さんが刀を納めてオレを見上げた。
「物好きだな」と言いたそうな顔をして、同時に「凄いだろ」と自らの腕を誇っているようにも見えた。

斎藤さんが路地から出て歩き始め、オレは塀から降りて距離を詰めた。

なぁ、あの人達はあのままでいいのかよ。
黙って見上げると、目が合った斎藤さんは静かに笑った。
全く、黒い着物を着ているから染みは見えないけど、血の臭いはちゃんとついてるよ。
この人のそばを歩いていると、自分も黒猫で良かったと思えてくる。
変なことを考えさせてくれるよな。

どこへ行くのかなと思ったら、大きな屋敷に辿り着いた。
誰の家なんだ。

「ここから先は、と言いたいがお前なら構わんな」

ん?何のことだ。
潜り戸を開いた斎藤さんに、お前も来るんだろとばかりに顎先で誘われた。
初めて入る場所だからな、斎藤さんについて行くとしよう。

斎藤さんと一緒に屋敷の敷地へ踏み入った。
悪い感じはしない。住んでいる人間は安全な連中なんだろうな。

辿り着いた部屋で斎藤さんは腰を下ろした。
オレは何となく距離を取った。部屋の外から斎藤さんを見ている。

やがて斎藤さんにお茶が運ばれた。
運んできた人間に、斎藤さんが何か耳打ちをする。
オレにも聞こえないなんて、話し方が上手いな。

お茶を運んだ人間はオレを見てにこりと笑い、去って行ったが間もなく戻ってきた。
小皿に乗せられた煮干しがオレに差し出される。
斎藤さんを見ると、俺は知らんと顔を背けている。でも、何だか嬉しそうに頬を緩めていた。

いつもなら知らない人間から食べ物は受け取らない。
新選組の人間からだって滅多に受け取らない。
しかし、今日は何故か素直に受け取った。 

運んできた人間はオレを見てにこにことした後、斎藤さんに会釈をして去って行った。
オレが煮干しを受け取ったことで斎藤さんの面目が保たれたらしい。

そのうちに誰かが部屋へやって来て、斎藤さんはその人間と話を始めた。
随分と品のある人間だ。

たまにちらりと斎藤さんを横目に入れて、オレはのんびり煮干しを味わった。
随分と話し込んでいる。
おかげでオレは久しぶりにじっくりと食事をした。
とても静かな場所だ。そのまま眠ってしまいたいほど、居心地の良い場所だった。
 
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ