新選組に飼われたいネコ

□11・動かない人
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町を歩いていると、橋のそばで座り込んでいる人がいる。
食べるのに困っている人が、小さなカゴを置いて、町ゆく人にお金や物を分けてもらうんだって。
クロさんが教えてくれたんだ。
でもおかしいな、今日は新選組の屯所で見かける人が、カゴを置いて座っている。
いつもと違う汚れた姿。どうしたんだろう。

気付いたから顔を覗いたら、顔を逸らされてしまった。
顔は見えないけれど、この匂いはどう考えても新選組の人だ。こんな所で何をしているんだろう。

普段見せないだけで、本当は困っているのかもしれない。
ボクにお金は無理だけど、人間が食べられるものなら知ってるよ。

ボクは急いで林に入り、木の実を持って戻ってきた。
カゴに入れてあげたんだ。
このままじゃ食べられないだろうけど、屯所で火を使えば食べられるんでしょ。

喜んでくれたのかな、顔を隠した人が、クスっと笑った。
それでも撫でてもらえないし、声もかけてもらえない。不思議だなぁ。

どうあっても相手にしてもらえないみたい。
仕方がないなぁ。
ボクは諦めてその場を立ち去った。


それから度々、同じ場所で同じ人を見かけた。
今では駆け寄らずに、その人の前を通り過ぎる。でも一旦立ち止まるんだ。
顔は見ないよ、匂いで分かるから大丈夫。
尻尾を二、三回振って挨拶をする。ボク、気付いてるよ!ってね。

そうするとその人は「シッシッ」ってボクを追い払うんだ。
でも嫌じゃないよ、離れて振り返ると、その人はいつも笑っているからね。

その人は山崎さんって言うんだ。
屯所で滅多に会わないけれど、会うと抱き上げてくれて、たくさん撫でてくれる。
ボクがするより早く顔を擦り付けて、何を言っているか分からないくらい早口で沢山話しかけてくれる。
とても優しい声なんだ。笑ながら話すから何を言っているか少しも分からないけど、とても楽しいよ。

橋のそばで会う時とは別人みたい。同じ山崎さんなのに変だよね。
ボクはどっちの山崎さんも大好きだよ。
離れて笑顔を送ってくれる山崎さんも、ボクを抱きかかえて顔をくしゃくしゃにして笑う山崎さんも大好きだ。

今朝は屯所で山崎さんを見かけない。
天気も良いしお散歩日和。
今日もボクはシッポを振りに町に出るんだ。
 
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