新選組に飼われたいネコ

□25・伊東さん
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ボクに向かって、猫の鳴き真似をする人がいる。
途中からみんなと一緒に暮らすようになった伊東さんだ。
新選組の屯所がこの西本願寺に移る前にやって来た。

「にゃぁおん」

最初、そう言われた時は驚いた。
目を丸くして、思わず毛を逆立たせてしまった。

「ふふふ」

伊東さんは固まったボクを見て笑うと、どこかへ行ってしまった。

それから顔を合わせる度に、ボク達の真似をして声を掛けてくる。
正直言うと、初めはボク達の真似をしているって分からなかったんだ。

「ねぇクロさん、今の聞いた?」

ある時、クロさんも一緒に伊東さんのおかしな声を聞いた。

「伊東さん、何をしているんだろう」

「オレ達の声真似をしているんだろ、遊んでいるつもりなんだ」

「ボク達の真似?遊んでくれているの?」

「そうさ、鳴き真似をして気を引きたいんだろう。猫が好きなんじゃないのか」

「そうなんだ。ボク、気が付かなかったよ」

それからボクは伊東さんの「にゃおん」に驚かなくなった。

それに面白いんだ、一度ボクが鳴き返したら、今度は伊東さんが目を丸くした。
随分と長い間、楽しそうに笑っていたよ。

「にゃぁおん」

「なぉん」

こんな風に挨拶をするようになったある日、不思議なことに伊東さんの声が本当にネコの挨拶みたいに聞こえた。

「こんにちは」

って聞こえたんだ。
ボクは久しぶりに伊東さんの声に驚いた。


伊東さんとの挨拶が日課になった頃、壬生の周りでは木々の葉が散り始めていた。
ボクは散る物が大好き。
春は桜、初夏には竹の葉、秋には色とりどりの葉っぱ。飛び跳ねて掴まえるのが楽しいんだ。

ボクが遊んでいると、たまに伊東さんがやって来る。
遊び相手になってくれるから、大歓迎だよね。
今日のボクは、落ち葉を掴まえて遊んでいた。

「落ち葉が好きなのですか」

伊東さんの言葉に動きを止めたボク。
そうだよ!と答えるように鳴いて、ボクは再び飛び跳ねた。
 
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