新選組に飼われたいネコ

□18・山桜を追いかけて
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ある日、沖田くんが血相を変えて屯所を飛び出して行った。

「馬を使います!」

そう叫んで、行ってしまった。

「クロさん、沖田くんは馬に乗ってお出かけするみたい。急いでどこに行くんだろう」

「さぁな、遠くへ行くのか、急いでいるだけなのか、分からないな」

縁の下から出たボクは、まだ眠そうに微睡んでいるクロさんを振り返った。
クロさんは目を閉じたまま話をしている。

「うん。それにしても、青ざめていたね」

「そうかい」

「あんな沖田くんは、初めて見たよ」

なんだか怖いよ。
何かを恐れて、悲しんで、淋しそうな顔で出て行った沖田くん。
どこへ向かったのか、ボクには分からなかった。

屯所の中は騒がしくて、みんなが行ったり来たりしている。
でも、土方さんだけは静かに座っていた。

部屋の外から見つめるボクに気付いて、土方さんの目がチラと動いた。
ほんの微かに笑んで、土方さんはまた元の場所に目を戻した。
じっと畳を見つめている。
畳の上に何かあるんだろうか。もしかしたら汚れているのかもしれない。
土方さんは結構綺麗好きだからね。

相手をしてもらえないと分かったボクは、屯所の中を歩き回った。
散歩じゃないよ、屯所の空気が落ち着かなくて、気になったんだ。
みんないるかな、元気かなって顔を見て回った。

誰もがそわそわして落ち着かない中、土方さんの他にもう一人だけ、平静を保っている人がいた。
斎藤さんだ。
人がいない一角に佇んで、空を見上げていた。

ボクが近付くと「おや」という顔をして、それから片方の口角を上げて微笑んだ。

「なぅん・・・」

沖田くんは一体どうしたの。
ボクが訊ねると、斎藤さんはゆっくり腰を落とした。

「沖田君かい、大事な用があってね、出掛けたのさ。今夜は戻らないだろう。明日、帰って来るさ。一人か、二人か」

「にゅぅ・・・」

二人?
誰かを連れてくるの。迎えに行ったの。
迷子の誰かを探しに行ったのかな。
だからあんなに急いでいたんだ。

「明日は、長い散歩に行った方がいいぞ。壬生寺で一日過ごしてもいいが、鴨川ぐらい離れた場所がいいかもしれない」

「なぉん・・・」

どうして?
ここにいない方がいいって、どういう事だろう。
首を傾げたら、斎藤さんが「荒れるかもしれん」と呟いた。

もしかして、大掃除をするのかな。
前に大掃除があった時は埃っぽくて、目が痛くて体中がムズムズしたんだ。

「なぁん!」

教えてくれてありがとう。
ボクは斎藤さんに体を擦り付けて、甘えた。
たまにしか撫でてくれないけれど、斎藤さんの大きな手が大好き。
長い指が体の上を滑ると、とても気持ちがいいんだよね。

次の日、斎藤さんが教えてくれた通り、沖田くんが帰って来た。
見たことがある人が一緒だった。

なぁんだ、あの人が迷子になっていたのか。

安心したボクは、斎藤さんに言われた通り、鴨川まで出かけた。
クロさんにも大掃除だよって教えてあげたけど、クロさんは気にしない素振りでまた寝てしまった。
すぐに起きてどこかに出かけるだろうね、大掃除はうるさいもの。

ボクは遊んだり獲物を追ったり気ままに過ごした後、温かい場所を見つけて眠り込んだ。
日が沈んで空気が冷たくなって、ボクは目が覚めた。
 
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