新選組に飼われたいネコ

□19・引っ越しても、好きな壬生
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朝晩、風が冷たい季節は、風の通りが無い場所を選んで眠る。
たまに誰かの部屋に上がり込んで眠ることもある。

そんな寒い季節、ただならぬ出来事が起きた。

「お前らも一緒に行くんだろうな」

朝、土方さんがボクを見つけてそう言った。
何の事だろう。
土方さんはたまに屯所を開けて、何日も帰って来ない。
遠出にボクがついて行ったことは無い。
だけど今回は一緒においでって事なのかな。

言葉の意味が分からないボクは、土方さんの後ろをトコトコとついて歩いた。
そんなボクを見て、今度は沖田くんが話しかけてきた。

「日野からついて来たくらいですものね。おいで、新しい屯所に案内しますよ」

新しい屯所?

どういう事だろう。
首を傾げていたら、ボクは沖田くんに抱えられた。

「土方さん、一足先に行っていますよ。荷物は荷駄方にお任せします」

「おいおい、仕方がねぇな」

場を仕切る土方さんは、無邪気に笑う沖田さんに困った顔を見せた。
だけど、怒ることもなく、土方さんはしっしと沖田くんとボクを追い払った。

「先に行っていいよって事ですよ、ひーくん」

しっしとされてビックリするボクに、沖田くんが微笑んだ。


ボクは抱かれていなくても、人間と一緒に歩けと言われたら歩く。大好きな人ならね。
でも沖田くんの腕の中で揺られるのも悪くないから、ボクは大人しく体を預けていた。

所で、どこに向かっているんだろう。
そう言えば、みんな随分と大きな荷物をまとめていた。
まさか日野に帰る気なのかな。

日野まで歩くなら沖田くんもさすがに先に行かないよね。
ボクは思い直して、沖田くんの顔を見上げた。

うふふと笑う沖田くんは、すたすたと歩き続けて、ある大きなお寺までボクを連れてきた。

「大きいお寺でしょう、今日から僕達新選組はここで暮らすんです」

「なぅん?」

「転宅、お家が移るんですよ」

どうやらお引っ越しするみたい。

「みんなが来るまで時間がありますね、先に入って探索しましょう」

沖田くんは相変わらずボクを抱えたまま、ふんふんと鼻歌交じりに歩き出した。
まるでお祭りで物見をしているみたいに、あちこち覗いて歩く沖田くん。

お寺の人に出会っても、臆せず笑顔で挨拶をする。
一人だけ先にやって来たのが不思議なんだろうね、お寺の人は沖田くんを見て驚いた顔をした後、ボクを見てにこりと笑う。
猫が好きなのかな。

「部屋割りは土方さんに聞かないと分かりませんね」

境内を回り終えた沖田くんは、ボクを抱えたまま部屋を見て回り始めた。
この部屋がいい、こっちは隊士用の大部屋か、ここはきっと仕切りを入れるだろう。
思いつくままボクに説明してくれる。

それにしても、ここは広すぎて落ち着かないなぁ。
沖田くんや土方さん達が過ごす部屋の床下なら、大丈夫かな。
まずはみんなのお部屋を確かめないとね。

それからクロさんにも教えてあげなくちゃ。
まだ壬生にいるかもしれない。
それとも、大移動を見て、お引っ越しに気付くかな。

「なぁぅん」

「ん?そうか、クロが心配なんですね。斎藤さんによろしく伝えてあるので、クロを見つけて連れてくると思うんだけど、クロは嫌がるでしょうか」

うーん、斎藤さんのする事になら、クロさんも逆らわないかもしれないけれど、気まぐれだからやっぱり分からないや。
ボクは沖田くんと一緒に首をひねった。
 
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