新選組に飼われたいネコ

□21・水涼み
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日野から京にやって来て、一つだけ気に入らない事がある。
それは夏の暑さだ。
信じられないほど空気がねっとりとして、熱を持っている。

暑い日がやって来ると、ボクは鴨川まで行くのも諦めて、屯所の床下で過ごす。
たまに涼しい朝のうちに川まで移動して、一日を河原で過ごすこともあるけど、新選組のみんなが気になるからと自分に言い訳をして、縁側の下に潜り込むんだ。

動くのが嫌になっても、動かなければいけない時がある。
食事をしたり、お水を飲む時だよ。
狩りは大好きだけど、動くのも嫌な日は面倒だから人間に甘えちゃうんだ。
いい匂いがして来たら縁側から顔を出して、いいなぁってすると、お裾分けしてもらえるんだよ。

最近はボクが暑さでぐったりしているのを察して、はなからボクに渡す食べ物を用意してくれる人もいる。ありがたいなぁ。
だけどクロさんは人間の世話になるのを嫌がって、相変わらず狩りに出ているよ。
偉いなぁ、ボクには真似できないや。
もう暑くて、動きたくないんだもの。

夏場は一日が長く感じられる。早く涼しい時間にならないかなぁ。
屯所の床下で伸びていたら、ほんのり涼しい風がボクの頬をくすぐった。
こんな日にこんな風が吹くなんて。

不思議に思ったボクは重い体を起こして、風の元を辿った。
風と共に、良く知る慣れ親しんだ匂いがやってくる。
この匂いは確かね……。

縁の下から顔を出すと、そこは井戸の前だった。
大きな音の後、広がる水しぶきが見えた。強い日差しに照らされて、水しぶきが一瞬きらきらと輝いた。
何て綺麗なんだろう。

近付こうとしたボクは、地面に下ろしかけた足を止めた。
辺り一面、地面がびっしょり濡れている。

「なぁん」

「おぉひーか、お前も水浴びに来たのか、暑いもんなぁ!」

水浴びをしていたのは原田さんと永倉さんだ。
ボクを見つけてにっこり笑った二人だけど、あろうことかボクに水をかけてきた。桶で思い切り。
ボクは驚いて跳び上がった。

何するの!
水は飲むもので、浴びるものじゃないんだぞ、少なくともボクにとってはね!

まともに浴びなくて良かった。ボクは体を振るって、毛についた水を払った。
その姿を見て、二人も悪いことをしたと気付いたみたい。
ボクに桶を向けるのをやめて、ポリポリと頭を掻いている。

「ハハッ、悪い悪い、お前は嫌だったか」

知らなかったんだね、そうだよ、ボクに水をかけないでね。

でもいい場所を見つけたぞ。
水が撒かれたこの辺りは、周りより涼しい。

折角だから、ボクは水を飲んでいくよ。
察しがいいみんなはボクの為に水を汲んでくれた。至れり尽くせりだね。本当にありがとう。

ボクが水を飲んでいたら、原田さんが滑車を回して重そうな釣瓶を持ち上げた。
水で満たされた釣瓶は、原田さんが手にするだけで水が零れる。
頭から水をかぶったと思ったら、今度は永倉さんが釣瓶を下ろした。

他の隊士もやって来て、交互に水を浴びている。
この井戸ってのは不思議だな、こんなに浴びて水が無くならないのかな。
たまに気になるけれど、井戸の中は怖くて覗けない。
でもいいや、人間のすることだもの。
みんな、どんどん水浴びをしてね、そしてボクの寝床を涼しくしてくれると嬉しいな。

ボクは暫く、はしゃぐ永倉さん達の周りで遊んだ後、井戸のすぐそばにある縁側の下に潜り込んだ。
ここは他の縁側の下よりも涼しかった。
 
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