新選組に飼われたいネコ

□22・お医者さんの力
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屯所にお医者さんがやって来た。
どうしてお医者さんだと分かったかって?土方さんが教えてくれたんだよ。

ボクは最初新しいお坊さんが増えたと思ったんだ。
だけど土方さん達と話し込む様子がお坊さんとは違った。

お坊さんが少し怖い顔で何かを言っていた。
土方さんは怒ったり泣いたりせず、うんうんと頷いていた。
そして弾けるように跳び上がったと思ったら、いろんな人に何かを伝えていた。

間もなく大工さん達がやって来て、トントンカンカン、屯所が騒がしくなった。
ボクは堪らず西本願寺を飛び出した。

夕暮れ時、さすがに人間も静かになる時間だから、ボクは屯所へ戻った。
恐る恐る中を覗くと、大工さん達はもういなかった。
あのお坊さんみたいな人もいない。

土方さんが満足そうに腰に手を当てて、何かを眺めていた。

「おぉ、ひーか。騒がしくて逃げていたんだな、見ろ、凄いだろ」

見ろ、と言われた先には大きな何かが置いてあった。
樽かたらいか、とにかく大きな物だ。
ボクが何か分からず周りを回って確かめていると、土方さんが不意にボクを両手で持ち上げた。

「風呂だよ、お前も入るか。今なら一番風呂だぜ」

えぇっ、お風呂?!お風呂って大きな水たまりでしょ!
しかもお水じゃなくて熱いお湯なんだの、知ってるよ!

ボクは慌てて逃げようと暴れた。

「ははっ、冗談だ。お前が水を嫌いなのは知ってるぜ、驚かせて悪かったな」

あぁもう驚いた。

土方さんはそう言ってボクを抱え直してくれた。
お詫びの気持ちを込めているのか、ボクの体の上を土方さんの手が丁寧に行き来している。

「お前、さっきもいたよな。見ただろ、怖そうな男をよ。ありゃお医者さんなんだ。この屯所の悪いところを教えてくれてな、隊士の体も見てくれたのさ」

「にゃぁん」

隊士の体って、沖田くんもかな。
前に出ていた咳が、最近は落ち着いている。
あのお医者さんのおかげだったのかな。

良かったね、って顔を見上げたら、土方さんが嬉しそうにニカッと笑った。
ボクの前でしか見せない笑顔だよ。愛嬌のある顔で、ちょっと面白いの。

ねぇ、沖田くんの所へ行こうよ。

土方さんに伝わるかな。
顔を覗いたら、

「おぉ、そうだな」

と歩き出した。
嬉しいな、気持ちが通じたよ。
 
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