新選組に飼われたいネコ

□22・お医者さんの力
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「おぅ総司、入るぞ」

土方さんは部屋の前で一言声を掛けて、「どうぞ」と明るい返事を聞くと当時に障子を開けた。
中では沖田くんが座っていた。
良かった、いつもの優しい笑顔の沖田くんだ。

「なおぉん」

嬉しくなったボクは、土方さんの胸を軽く蹴って、腕の中から抜け出した。

「おぉ、ひーのやつ喜んでるな」

「あははっ、僕も嬉しいですよ、ゆっくり顔を見るのは久しぶりですね、ひーくん」

「なぁあん」

本当にその通りだよ。
沖田くんの腕の中にすっぽりおさまったボクは、全身を擦り付けた。

「よっぽど総司のことが好きなんだな」

「土方さんのこともでしょう、何かあると部屋の前で待っているじゃありませんか」

「確かにな。もしかしたら俺が持ってくる煮干しが目当てなんじゃないのか」

「にゃぁあん」

そうだけど、そうじゃないよ。
でも煮干しは大好き。遊んでくれる人も、撫でてくれる人も大好きだよ。
土方さんも沖田くんも大好きだよ。他のみんなも、新選組のみんなは優しくて大好きだよ。

ごろごろと喉を鳴らしたら、二人があははと笑っている。
良かった、沖田くん笑っても咳が出ないんだ。
あのお医者さんのおかげかな、お医者さんは凄いなぁ。

「調子がいいみてぇだな」

「おかげさまで。このまま治ってくれるといいんですけど」

「無理するなよ。もちろん出歩いて新鮮な空気を吸うのは止めねぇが」

「ありがとうございます。ひーくんと日向ぼっこしてもして来ようかな。どうですか、ひーくん」

「なぁん!」

もちろん行くよ!
土方さんも一緒に行こうよ、たまには行こうよ!

「土方さんもたまにはどうですか、と聞いているようですね、ひーくんは」

「ははっ、仕方ねぇな、少しだけだぞ」

ボクの顔を覗き込んで、土方さんは大きな手でボクの頭を撫でた。
二人と日向ぼっこだなんていつ以来だろう。
嬉しいよ、楽しいよ。

二人が並んで縁側に腰を下ろすと、ボクは沖田くんの腕の中から膝の上に移動した。
沖田くんの膝は温かくて気持ちいいなぁ。
少しだけ、痩せたのかな。
膝の上で丸くなってみたら、前と違う気がしたんだ。気のせいかな。沖田くんの上が気持ちいいことに変わりはないけどね。

「たまにはいいもんだ」

「えぇ。もし僕がこうやって日向ぼっこ出来なくなったら、土方さんがひーくんと日向ぼっこしてあげてくださいね」

「何言いやがる」

「単なるもしもの話です。ひーくんは僕達によく懐いていますし、人と過ごすのが好きでしょう、誰かが可愛がってあげてください」

「ひーは大切な存在だ、いつだって可愛がってるさ。なぁ」

「なぁん」

ボクはみんなが大好きだよ。クロさんだってあんなだけど本当はみんなが大好きなんだ。
ボク達はいつだってみんなと一緒だよ。

「どこへ行ってもついて来るからな、放っては置けないさ」

土方さんが呟くと、沖田くんが頷いた。
そして言ったんだ。
僕のことも置いて行かないでくださね、だって。
土方さんが沖田くんを置いて行くわけないのにね。おかしなことを言うなぁ。

ボクは目の前で餌を啄む小鳥たちを気にも留めず、沖田くんの膝の上で目を閉じた。
二人の優しい声が、心地よく響いていた。
 
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