新選組に飼われたいネコ

□23・黒い衣の二人
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クロさんは一人で行動するのが好きで、人間にはあまり近付かない。
だけど全く興味が無いわけじゃない。
たまにみんなを見ているのを知っている。それから、たまに斎藤さんの後をつけていることも。

理由を聞いたけれど、「何となくだよ」とそっけない答えが返って来た。
確かにボクも何となく隊士のみんなを追いかけることがある。
ボクが土方さんの後を追いかけている時、クロさんは斎藤さんを追いかけていた。


「物好きな猫だな、あまりいい物は見られんぞ」

塀の上からついて来るオレを振り返り、斎藤さんが呟いた。
猫の耳は便利だ。
人間が他の人間に聞かれないよう小さな声で言った言葉が聞き取れる。
オレは気にしないよと後を追い続けた。

オレが斎藤さんの後を追いかけるのは何となくだ。
それから時々、不思議だからだ。
新選組には沢山の人間がいるが、この人は他の人間と異なる行動を取ることが多い。単純な興味だ。

少しだけ自分に似ていることも理由かもしれない。
もし自分が人間だったらなんて考えないが、もしそうだったらオレはこの人のように振る舞っているかもしれない。

新選組は頑張っている割に、町の人々に嫌われている。
もちろん好意的な人間もいるが、聞こえないつもりでヒソヒソ悪口を言う人間もいるんだ。オレの耳には聞こえている。
人間には聞こえないはずなのに、斎藤さんはそれに気付いている。勘の良い人だ。

悪口より酷いのは、直接刀を向ける人間がいることだ。
最初は驚いたが、オレ達だって喧嘩はする。
縄張り争いなど理由がある喧嘩もあれば、気に入らないってだけで喧嘩をする猫もいる。人間も同じらしい。

オレ達の武器は牙と爪だが、この町の人間は刀で喧嘩をする。
馬鹿だな、死ぬかもしれない喧嘩だなんて。

刀を向けられては、応じるしかない。
斎藤さんが何度か刀で応じる場面を見た。
最初は言葉で応じるんだ。見ていて冷や冷やするさ、斬られちまうぞってな。

だけど斎藤さんは自分の強さに自信があって、相手の力量を読み取れると知ってからは、冷や冷やもしなくなった。
相手がむしろ可哀想さ、喧嘩を売る相手を間違えたなって。

軽い気持ちで喧嘩を吹っかけてくる相手もいれば、何か目的を持って本気で斬りかかって来る相手もいる。
斎藤さんはただ絡んできただけの相手は、軽くあしらって追い払う。
本気で殺しに来た相手は捕えて役人らしき人間に引き渡すことが多い。
ただし、その場で斬り殺してしまう事もある。
驚いたけど、自分を守る為なんだ、当然の対応なんだと納得した。

ひーも馬鹿じゃない。鼻も効く。
口には出さないが薄々気付いているだろう。
 
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