恋の魔法
□1話 アリス
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ここは、クレイドル。魔法が栄えた大都市の中立広場であるセントラルだ。
広場には人だかりが出来、拍手やら賑わいの声が聞こえて来る。
「ここで何をしている?」
人がきを分け、一人の少年が不機嫌そうに覗き込もうとしている。
民衆はその少年の存在に気づくなり、ハッとした表情を浮かべ道を開けていく。
ーー赤のクイーンじゃないか。
口々につぶやき、事の次第を見守り出している。
赤のクイーン、それはこの国の二つの軍のうちの一つの階級だ。
クレイドルは、赤と黒の二つの軍が存在し、トランプのようにキングからエースの階級で成り立っているのだ。
少年は、朝に兵士からセントラルが騒がしいという報告を受け、何事かと調査に来ていたのだ。
少年は、人の群れをやっとかき分け、騒ぎの中心へとたどり着いた。
彼は、目の前の予想外の光景にパァっと目を見開いた。
人々に囲まれ、歓声を受けていたのは踊り子だったのだ。
少女は見たこともない踊りを、見た事のない衣装を着て踊っていた。
腰まであるブロンドの髪は、まるで光輝いているように、少女の動きに合わせて艶めき、その姿に誰もが見とれていた。
そう、赤のクイーンと呼ばれた少年も彼女が踊り終わるまで、微動打に出来ずにいた。
ーー綺麗だ
少年は素直にそんな感想を胸に抱き、気づかぬ間に声に出していた。
「ありがとう!でも、あなたの方がとっても綺麗…!」
その声に我に返った少年は、ハッと目を見開いた。
気づくとさっきまで踊っていた少女は、いつのまにか踊り終えて観客から声援や鑑賞代を振りまかれていた。
そして声援が落ち着いた今、彼女は少年の顔を覗き込み微笑んでいる。
ーーすごい綺麗な顔立ちの男の子だなぁ…思わず見ほれちゃった!
少女は、もう一度、今度はもっと近づいて彼の顔をまじまじと覗き込んだ。
少年は驚いて、後ずさりをした。
しかし、彼女はそんなことは気にも留めずに、もう一度微笑むとゆっくり背を向けた。
「まちなよ!」
去っていく彼女の手首を、我に返った少年がぐいっと掴んだ。
少女は、何かというふうにただ目を見開いて見せた。
「…っ君、入国証は?」
少年はそう問いかけると、困惑した少女に厳しい目を向けた。
「その衣装や顔からして、この国の人間じゃないよね?許可のないものの立ち入りは禁止されているんだよ。」
「えっと…私は…」
少女は口ごもり、どうしようか考えている様子だ。
しかし、すぐにさっきまでの明るさを取り戻すと少年をまっすぐ見つめ返した。
「ごめんなさい、知らなかったの。迷っちゃって…ここはどこなの?あなたはこの国の偉い人?」
その言葉に少年の顔はますます、厳しくなった。
「何、誤魔化すつもりなの?…君はこの俺を…赤のクイーン、ヨナ・クレメンスを知らないとでもいうつもり?」
ヨナと名乗った少年は心底不愉快そうに顔を歪めた。
ーー…っそんなこと言われても知らないものは知らないしなぁ。
なんだか信じてもらえなさそうな雰囲気だし、せっかく私がどこにいるのか確認しようと思ったんだけど…
この人、ヨナって人なんだか感じ悪いし逃げちゃおっかな…