名探偵コナン

□命短し恋せよ乙女
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私は黒ずくめの組織の一員
コードネームは##NAME2##

お酒っぽくないから他のにして
ってジンに言ったら

「てめぇなんざ曖昧で十分だ
まともに仕事任せらねぇ
精々補佐だけ完璧にしろ」

って突っぱねられちゃった


自分のコードネームを知った時は
パソコンいじくって組織の機能停止にしてやろうかと本気で思った


今日はそんな日の事を思い出しながらぼ〜っと歩いていると
誰かとぶつかって転んでしまった


「あ…ごめんね」


「すまない 怪我はないだろうか」


そう言って助け起こしてくれた人は知らない人だった


長い髪にニット帽、染みついている煙草の匂い、極めつけは耳に心地好い余韻を残す低い声
姿勢も真っ直ぐで 立ち姿にも隙がない


「ありがとう 怪我はないよ そっちは?」


さりげなく目を合わせないようにして答えた


「俺もない
君に怪我がなくてよかった 君もここの一員なのか?」


問いかけられた事から彼が新入りであることを知る


「うん そうだよ ##NAME2##っていうの 貴方は?」


「##NAME2##か 俺はライ 先程コードネームを貰った」


ライ… 口の中で呟き薄く笑む
お酒の名前ならこれからも逢えるね


「いいなぁ お酒の名前… ジンのバカ……」


ぼそりと呟いた独り言は彼─ライに聞こえていたようで首を傾げられた


「気に入らないのか?」


「うん ジンがつけてくれたんだけどお酒なのにお菓子みたいだし…
ジンに言ったらお前なんか曖昧で十分って言われた…」


愚痴っていると思い出して腹が立ってきた
今からでも遅くない 報復しようかな


ついつい心の中で物騒な事を考えてしまった


「まぁ…私は中途半端だから仕方ないんだけどね」


自嘲気味に笑った
いつも結局この結論になるのだ


「中途半端?」


不思議そうに問われ、あぁ…と納得した


「みんなね 体力あるでしょ?
男の人も女の人も任務に耐えられるように
でも 私の体力は普通の女の子の半分あるかないの
今はもっと落ちているかもしれないしね
それに武器の扱いもできない
だから出来損ないなの」


一気にそう言い切った
もしかしたら見下されるかもしれない、と思いつつ


「そうか… それは日常生活を送るにも大変そうだな
しかしそれでもここにいられるのなら
ジン達が認める何かがあるのだろう? 出会って間もないが彼らは使えない人間にコードネームを与え傍に置くとは思えない」


思いがけない反応に驚き この人は頭がいいのだと感じた


「何かおかしいことを言ってしまったか?」


固まってしまった私を見て怪訝そうにした


「え…あ…いや 大丈夫 ありがとう そう言ってくれた人初めてでびっくりした
すごく嬉しいよ 確かにね代わりに出来ること 私にもあるよ」


もし知りたかったら 今晩私の部屋に来てね と言い残し立ち去った


私の勘が正しければ 彼はきっと……


その日のもうすぐ日付も変わろうかという頃
コンコンと扉を叩く音がした


「ライなら入っていいよ〜」


答えるとライが入ってきた
何故か少し呆れた顔をしていたが私と目が合うと真っ青になった


「なんて格好をしているんだ君は…!」


「ほえ?」


なんてって普通じゃない?
胸元の緩いダボダボの膝丈ロングTですけど?
パンツ見えないから大丈夫!


ってピースしたら無言でライの上着を無理矢理着せられた


「む……」


袖口から薫る煙草の匂い 嗅ぎ慣れているから安心する


まぁ ライが着せてくれならいいやと思い
そのままそれにくるまった


そしたらあからさまにほっとした顔をされた 何故


「ライ 聞きに来たんだよね?」


わざと主語を抜かして言うと
あぁ、と答えた そりゃ知りたいよね


「教えてあげるよ FBIの赤井秀一さん」


電源を落としたパソコンを見つめて話しかけると空気が凍りついた


「いつ気づいた」


氷のような声で問いかけられ言葉が詰まる
向けられる視線も殺気も全て私に向けられていた


「初めから…
雰囲気が冷たくて怖いのが底にあるジン達と違ってて…
貴方は瞳が温かかったの……
まさかと思って調べたら貴方の正体に気づいた」


伏し目がちに答えると 彼は質問を重ねた


「この事を他の人間は?」


「知らない 言うつもりもない
ねぇ…逃げ道なら確保する だから逃げてよ」


自分が泣きそうな声をしているということに気づいた


「すまない それについては感謝する
だが 俺にはこの組織について調べる義務がある」


あっさり断られ更に泣きたくなった この人は本当に仕方のない人
会ってまもないのになんとなく彼の性格を掴めてしまった


「1つ提案がある」


不意に告げられたことに目を見開く
彼はなんと自分と共に逃げないかと言ったのだ


「##NAME2##俺と逃げないか?
お前は必ず俺が護る」


また思いがけない言葉
でもごめんね 服の裾を捲り左太腿を見せた


「なんだこれは…」


左太腿だけ切り刻まれたり縫われた痕、全ての傷跡が不自然に盛り上がっていた
所々何かを入れてうっすら黒くなっていた


「ごめんね 私貴方とは行けないの
この足は組織に奪われたから」


うっすら黒いのはGPS搭載のチップ
体に埋め込まれ取ることは出来ない


まるで忘れるな いつでも監視しているとでも言っているようだ
本当に気持ち悪くなる


「私ね ジンに拾われたの
この傷はジンの命令じゃない
もっと上の人の命令
ジンは“そんなもの付けるくらいなら鎖でもつけとけばいい"
って言ってくれたけど止まらなかった
こんな年齢の女の子なかなか来ないからね
たくさん玩具にもされた
その度にジンが怒ってくれたけど上の人だけには逆らえなかった」


彼の表情が少し変わる
ジンの印象がほんの欠片は変わったのだろうか


「ウォッカも不器用ながらたくさん遊んでくれた
ベルモットは女の子として必要な事を教えてくれた
ジンは…完璧じゃなくても守ってくれた
だからね 私は貴方と逃げない
ここから出ることを選ばない ごめんなさい」


一目惚れに近い感情を抱いた彼よりも 私はジン達を選ぶ
彼は黙り込みしばらくしてそうか、とだけ言った


「ねぇ…逃げてよ
これでもジンには感謝してるの
最初に助けてくれた人だから
ジンがたくさん悪いことしてるって分かってる
お願い ジンの手を貴方の血で汚さないで」


涙を浮かべて言うと彼は首を横に振った


「すまない 君の感情はわからないわけではないが
俺には彼らを止めなければならない
例えどちらかの手が汚れたとしても」


真っ直ぐにこちらを見て真剣に伝えてくれた
予想なんてついていた


「仕方ないなぁ…
じゃあ私が全力で守ってあげる
貴方の正体がバレないように」


私は泣きながら言った
いつか必ず道は違える けれどその時までは共に


「君には感謝する」


そう優しく笑う彼
ほんとにかっこいい人
ジンと並んで見劣りしないくらい



そして彼女はライに恋心を抱くようになる
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