お前ら、準備はいいかァ!!(longdream)

□第6章 なんて緑な日々(四)
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…………………………………………………。



……………………??


「―――――ぶか?おーい?」

…………………。

「お、目ェ覚めたか。大丈夫か?」

……………だいじょうぶ…?

「…………だい………じょぶ」

「んー、なんや片言やなぁ。脳でもうったん?」

「…………?」

「あー、自分名前は?」

「なまえ……………?」

「…分からへんのか?」

……………………なまえ。

「……わからない」

「………もしかして、自分記憶喪失か…?」

「………きおく…そうしつ」

「………こりゃ、確定やな。でも、呼び方が分からへんな。よっしゃ、んじゃ自分の名前が分かるまで、"めがねさん"って呼ぶわ!」

「……めがね?」

「……あ、そこら辺も分からんのか…。眼鏡っちゅうんは、今自分がかけてるもんや。触ってみぃ?」

……触る。

その言葉を聞いたと同時に、自分にくっついているものが、見えてるものを塞ぐ。そして、何か固いものを感じた。

そのとき、これが"触る"ということだと、理解し、さらに、くっついてるものは"手"というのも、理解する。そして、今自分の"喉"を震わしているものは"声"というもので、今"私"はこの不思議な"話し方"をする"人"と"話している"というのも、理解した。

「なるほど、これが"眼鏡"」

「ん?片言が治った?」

「………今なんとなく"理解"してるんです。とりあえず、"話す"ということは理解したので、"片言"というのは治ったと思います」

「ほーん。自分不思議な体しとるんやなぁ。理解したら、思い出すっちゅー仕組みなんか?」

「多分そうかと」

「なるほどなぁ。せや、めがねさんは何も覚えてないんやな?」

「あー、はい。今"理解"したもの以外は何も」

名前も何も分からない。目を動かし、辺りを見る。記憶がないせいか、この場所に何も感情を抱かない。名前を聞かれたときと同じだ。"分からない"。

「あの………ここは?」

「ん?ここは、大阪にある四天宝寺中学や」

「中学…」

「中学に反応したっちゅーことは、自分中学生なん?」

どうやら、そうらしい。たった今、中学と言う言葉を聞いて、ピンときた。

「はい。ここではない中学生だったと思います。………中学の名前は分かりませんが」

「そかー。あー、どうしたもんかなぁ………。住所とかもわからんやろうし、というより、なんで記憶喪失の子が中学におるんや………?ここでなんかあった言うんか?」

「?」

「あー、大丈夫。なんでもないわ。しゃーない。先生にでも聞いて…「お、桜。まだ、帰ってなかったんやな。いやぁ、よかったわー」……ナイスタイミングやで、ほんま」

どうやら、この人が先生らしい。それにしても、今このひとは桜と言ったが、それはもしかしなくとも…。

「自分、住所のメモ忘れとったで?まだ、引っ越してきたばっかやろうし、忘れたらあかんで」

「あ、はい。すみません」

「ん?"謙也"。ここでなにしとるん?」

「いや、ここで、この子が困ってたみたいなんで」

「あー、無理もないなぁ。彼女、事故にあったらしくて、記憶喪失やねん。んで、たまに、名前とかを忘れるみたいやから、彼女が困っとったら、助けてやりぃや」

事故…………?しかも、名前を忘れることがあるとは?

「ま、任しといてください!」

「ほな、あとは任したでー」

あ、いっちゃった。

「………らしいんやけど、ホンマ?」

「多分。たしかに、事故にあったような記憶というか感じがありますので」

「ほーん。…………"桜梓"?なるほど、これが自分の名前なんやな」

桜梓。体に馴染む感覚がする。どうやら、その名前であっているようだ。

「…らしいですね」

「…………あと、学年も書いてあんな。………って2年やんけ。なんや、同い年やん」

「……同い年。つまり、敬語はいらない」

「せやな。その他は……「謙也さーん」……ん?なんや、財前やないか。走ってきてどないしたん?」

「………いや、なんやようわからん落とし物が………って誰っすか?その人」

「桜梓さんや!ちょっとボケボケしとる時があるけど、基本的には常識人やで!………多分」

「多分て………。しかも、ボケボケしとる時点で常識人じゃない気がするんすけど………」

「……まあ、そんな細かいことは気にしちゃあかんで!」

「……そーっすか。あ、俺、財前光言います。よろしゅう」

「よろしく…」

「財前は1年やから、後輩やで!」

「後輩………」

………その言葉を聞いた時、おかっぱ頭の誰かが頭をよぎり、ぶるっと震える。……後輩に良い思い出はあまりないようだ。

「……その表情でどんな後輩がいたのかは、想像できるわ。やなくて、落とし物ってなんなん?」

「…あ、これっすわ」

「……絶対忘れとったやろ」

財前が差し出してきた落とし物は、学校バッグ。

「この辺りじゃ見ない学校やったから……どこのなんやろって」

……どこか、見覚えがある。

「………中身見ても良いかな」

「え?あーまあええか。はい、どうぞ」

チャックを開け、中を見るとそこには、何かのケースと黄緑色の何かと白い紙が集まったもの。………全部見覚えがある。

「眼鏡ケースに黄緑色のブレスレット、そして、白紙の漫画…。…………白紙?」

「……これ、桜さんのか?」

「……全部見覚えがあるから、多分」
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