第n次カラメル抗争
□燃える炎の熱さ
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「なんだ、今回はずいぶん本気なんだな」
「嬉しそうなとこ申し訳ないですが、すでに建物内に侵入されてますよ」
「知ってる。お遊びもせずに真っ直ぐ向かってきてるってことだろ?ずいぶん熱烈だな」
「(楽しんでんじゃねーーーー!!!)」
足を組んでビロードの椅子にふんぞり返っているドン・マーレに、心の中で怒鳴る雅斗。一応ボスなので心の中で。
「なんか、あちらさん"あいつを俺の前に跪かせろ"って命令したみたいですよ」
「うわぁ…」
「はっ!どっちが跪くことになるのか見ものだな」
「ボスだと思うなー……」
「葵黙れ」
ボスの元に残ったのは間違いだったようだ。
ファミリーの男たちは一目散に外の敵の元へと走っていき、ボスの護衛が誰もいなくなったのでしょうが無く雅斗も残ったのだが。
葵も情報をボスに伝える係として残っていた。
「いやあ庭であちらさんとぶつかった翔さんから連絡あったんだけど、あっちのボス怒り通り越してご機嫌らしい。だから勝ち目ないって言ってたぞ」
「まあそもそもがなあ……」
「シロップよりも甘いでろでろのドロドロとか言われてたらしい」
「ブッ…」
さすがの雅斗も噴き出した。酷い言われようだ。
そして全部聞こえているボスだったが何も言わなかった。そう言われるのも今更だからだ。言われ慣れているとも言う。
むしろ煽られてさらに楽しくなってきた。
「そんなこと言ってドロドロになるのはどっちだか」
「ボスだと思うなー……」
「だから葵黙れ」
ここにおられる我らがボスは、どこに根拠があるかは分からないが負けるつもりはないらしい。余裕を見せすぎだと思う。
まあ正直この抗争、いくら自分たちが頑張ったところですべてボス次第だったりするのだ。こちらが確実に敵を倒したとしてもボスが倒されたらこちらの負けなのである。
その結果の110:30だ。
ボス同士のやりあいが重要なのである。
「あっいたいた!チェックメイト!」
「そして見つかるのが早すぎる」
赤いジャケットを翻し、青藍が部屋に入ってきた。探し物を見つけた子供みたいに嬉しそうに。
逃げも隠れもしなかった我らがボスは抗争が始まってそのまま建物内へ直行してきた相手ファミリーに秒速で見つかったのだ。
というか、見つけてもらうためにここで待っていたんじゃないか?というレベルである。
「お久しぶりでーす!我らがドン・フィアンマはお遊びには目もくれず寄り道もせず真っ直ぐ向かってますよ」
「いい子だな」
「やっぱ楽しんでるじゃねーーか!」
さすがに口に出てしまった雅斗。
だが我らがドン・マーレはこれ以上ないほどご機嫌だった。敵の幹部に見つかったっていうのに。
「うわっ、青藍さんのが早かった…すみませんボス…止められなくて」
駆けつけた雪弥が肩で息をしながらしょんぼりと謝った。
雪弥はなにも悪くないと思う。
「へえ、いい度胸じゃないか。こっちが直々に来てあげたっていうのに、自分だけ優雅に座っているなんて」
背筋の凍るような、地を這うような声が響いた。
青藍が後ろを振り返り頭を下げた。
見なくてもわかる。
めちゃくちゃに怒っている。
雅斗は恐る恐る青藍が頭を下げた先を見た。
赤く長いジャケットを翻し、汚れひとつ無いブーツを鳴らしながらゆっくりと歩いてくるその人は、まわりの雅斗や葵には目もくれず、真っ直ぐに射抜いていた。うちのボス、ドン・マーレただその人を。
「早かったなフィアンマ」
「礼儀がなってないなマーレ。許しを乞うなら今だ。床に額を擦り付けて"一生あなたには勝てません"って言えばまあ許すことも考えなくはない」
「許すって言わないところがお前らしいな」
「謝って済むなら警察はいらないんだよ」
許す気一ミリもないじゃん。
その場にいた人の思いが一致した。
「手癖の悪い甘ちゃんには手錠でも付けなきゃ学習しないか?」
「手錠は好きだ。ただしつける側だがな」
「会話が悪趣味」
「雅斗シッ」
雪弥が小声で雅斗の言葉を遮ったが、当の本人たちはお互いしか見えていないようだ。
コツリと音をたててマーレの前に立ったフィアンマは腕を組んで相手を見下げた。
「こちらが言わないと分からないか?そんな頭の悪い子に育てた覚えはないんだけど」
「ああ分からないな。なんでそんなに怒っているのか教えてくれ」
終始お互い笑顔で煽り合うのを遠巻きに見守るファミリーたち。手出しは禁物だ。これは暗黙のルールだ。
「メープルシロップよりも甘いでろでろの楓くんには"他人のものを盗ってはいけない"なんて幼稚園児でもわかることが分からないと、そう言っているのかな?」
「他人のもの?あれは俺がお前にあげたものだろう?つまり俺のものとも言えるわけだ。なあ?焔羅」
ブチッと、糸が切れるような音がした。
雅斗たちはゆっくりと部屋の出口へ向かう。
「ーーーああ!!!もう我慢ならない引き摺り倒す!!!そこになおれ楓!!!!」
「床に這いつくばるのはお前だ焔羅!!」
ドン・フィアンマーー焔羅がドン・マーレーー楓の胸ぐらを掴んだあたりで外野はそそくさと部屋から抜け出した。
付き合ってられない。勝手にやってろ。
「あの人たちの痴話喧嘩にファミリー巻き込むのやめて欲しい」
「痴話喧嘩…やっぱりそうなの?」
「いや雪弥、あれを痴話喧嘩と言わずなんと言うんだ」
「さすがに今回は焔羅くんのぶちギレ具合が尋常じゃないからドン・マーレは監禁されても文句言えないと思うな」
青藍がやれやれとでも言いたげに赤いジャケットを脱いだ。抗争も終わりである。俺たちにとっては。
あとはボス同士が勝手に決着をつけるだろう。
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