第n次カラメル抗争

□シロップの甘さ
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ガチギレじゃないか。やりすぎだろ。
雅斗は頭を抱えた。ため息すら出た。

「雅ちんため息なんてつくなよ。幸せが逃げるぞ」

「お前も原因の一端だろどうせ」

「あいたっ!なんでバレたし!」

頭をはたかれた葵は大袈裟に痛がる仕草を見せたが、すぐ楽しそうな顔に変わった。
葵はこのファミリーの諜報部員だ。かなりの腕前でボス直々に指名がくるほど。
そしてボスとともに色んな騒動を巻き起こすのだ。

「お前その技術と知識ほかのことに活かせよ」

「いいじゃんか。ボス楽しそうだし」

「いやほんとにな……なんであんな楽しそうなんだ……」

部下は一部を除いて真っ青だというのに。

間違いなく抗争になる。こんなくだらない抗争を何回続けるのか。
まあ正直これをボスに言ったところで「楽しいからいいじゃないか」と言われて終わりなのである。雅斗も学習した。

「おーい四条、お前も参加するか?」

「錘馳さん?」

亮太が面白そうに笑いながら雅斗のもとにやってきた。ボスの前だということできっちり黒いスーツだが、顔が緩んでいるので台無しだ。

「賭けさ。今回はどっちが勝つか」

「ここの人達こんなんばっかかよ…」

「はいはーい!俺、向こうのファミリーに賭けます!」

「おまっ、ばっか!声がデカい!」

どこのマフィアが自分のファミリーが負けることをボスがいる前で賭けるんだよ!
しかも原因の一人が。原因が!

…たしかに、この手の抗争は今のところ110:30で相手のファミリーが勝っている。
別にこちらが弱いとかではない。抗争の勝ち負けの基準がおかしいだけである。
それを考えると葵が最初から向こうのファミリーに賭けるのもおかしいことではないのだ。
葵が金を亮太に渡すのを苦い顔で見ながら周りを見渡す。

ザワつく大広間、朝からきっちり武装して楽しそうにふんぞり返っているボスと、抗争が始まると青い顔しながらそわそわするファミリーたち。

そこへ、バンッと扉を開けて入ってきた人物の、緊張感のない声が響いた。

「みんな〜〜あちらさん乗り込んできたよ〜〜」

「お前の緊張感のなさどうにかならないのか」

敵の動向を見ていた静樹が紫に目を光らせながらそう報告してきた。基俊が呆れた声でバシッと静樹の肩を叩く。
盛り上がる大広間。野太い雄叫びを上げる黒スーツ男たち。

「全力でボスをお守りする!」

「あいつらにゃ姿すら見せてやらねえぜ!」

先程まで青い顔をしていた男たちが意気揚々と外へ走り出した。アドレナリン大放出かよ。

「どうせ抗争が終わったあとここ片付けるの俺らなんだよな…」

「それが嫌なら勝つしかないな。そんで向こうに片付けさせろ」

「そんなの俺にはどうにもできません」

「雅斗!もう外では始まってるよ!」

「雪弥までなんでそんなやる気なんだよ」

「え?だって…ボスの命令だし。ほら行くよ!」

再度深いため息をついた雅斗だが、一拍置いて駆け出した。
まあ、俺も喧嘩は嫌いではない。




******

赤いジャケットと黒いスーツのぶつかり合いは広い庭や廻廊で始まっていた。

「オラァ!!そっちのシロップよりも甘ちゃんボスをだせやぁ!!」

「はっ!見つけ出せないまま尻尾巻いて逃げるのがオチだぞ!」

「毎回負けるやつらがどの口で言ってんだ」

「"俺ら"が負けたつもりはねーーー!!」

低レベルな言い争いが響く庭では、ドッカンバッコンと綺麗な植木がなぎ倒されていく。

「あっ、後で志岐さんにボッコボコにされるじゃねーか植物は大切にしろ!」

「その前に俺がボコボコにしてやるよ!」

向かい合った赤と黒だが、そこへコツンとヒールの音が響いた。

「幼稚な喧嘩はやめなさい。目的を忘れたの?」

「あ、朱美姉さん…」

「ボスに見られたら雷落ちるわよ。仕事は無駄を省いて迅速に!ほらさっさと行く!」

赤いジャケットの男が元気よく返事をして敵には目もくれず建物へ突撃して行った。
黒スーツに身を包んだ翔がギョッとして叫ぶ。

「あっおい待て!無視か!」

「お望みなら私が相手をしてあげるわよ」

赤いジャケットを身にまとった朱美がバツンッとムチをしならせた。赤毛と相まって映える。

「あなた方のでろでろのドロドロに甘いボスにはそろそろ懲りて欲しいのだけれど」

「はあ!?そんなのこっちのセリフだよ!そっちのボスもよくしつけといてくれ!」

「私の記憶が正しければそちらのボスからちょっかいを出すことが多かった気がするわよ?」

「そんなわけ……いや……そうかもしれない」

「まあそれに乗る我らがボスも大人気ないわね」

そして二人して肩を竦めた。

「…どっちが勝つと思う?」

「そうね、今回はこちらだと思うわ」

「あんたがそう言うならそうかもな…」

「ええ、かなりお怒りよ。うちのドン・フィアンマは。怒り通り越してご機嫌だもの」

翔が顔に手をあてて天を仰いだ。そんな仕草も爽やかである。
そしてトドメとばかりに朱美が腕を組んで確信をつく。

「だってあなた達のドン、うちのフィアンマにでろでろのドロドロじゃない」

「その時点で勝ち目ねえよなあ〜〜!!!」

翔の嘆きが広い庭に響いた。

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