夜空にかざしたブーゲンビリア

□第1話
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3月31日、マルタのルア空港で写真を撮ってツイート。
一ヶ月いたこの国とお別れ。
「…住んでも良かったかも」
ぽつり、呟く。
それぐらいいいところだった。
でも次に行くのはあの日本だ。
日本に思いを馳せつつ飛行機に乗り込む私の肩には横長で長方形のバッグがかかっていた。
「ダ スヴィダーニャ…マルタ」

結局飛行機の中では大爆睡。
ほとんど起きずに寝続けていたようだ。
おかげでお腹がペコペコ。
楽しみにしていた日本食をたらふく食べようと前から調べていたうどん屋に向かった。

いわゆる天ぷら、きつね揚げ、温泉卵がのった日本では普通と言われるうどんが運ばれてきた。
想像以上においしそうでいいにおいがする。
アップもしないのに写真を撮って割り箸を割る。
一般のロシア人は箸を使うのが下手だが、昔日本の友達に教えてもらったため少し自信がある。
その厳しい指導の甲斐あってスムーズに食べられる。
「いただきます」
教えてもらった食事前の日本の挨拶を口にしてうどんをすすった。
「…ふ、フクースナー…!」
信じられないくらいおいしいじゃないか。
とり天も、温泉卵も、なによりきつね揚げがおいしすぎる。
これを日常で食べられる日本人はなんて贅沢なんだろう。
「ごちそうさまでした」
汁まで飲み干して満腹になった私は東京観光を楽しんだ。

一週間そんな感じの生活を送って、京都・大阪・奈良に移動してそこでも相変わらずうどんを食べて最後に九州に来た。
九州と言えば温泉。
温泉街、長谷津に到着した。
駅にはユーリ・カツキのポスターがたくさん貼ってあった。
ユーラチカじゃない方のユーリ。
私は彼が気になったからこの街に来ていた。
っていうのはついでで。
「温っ泉〜」
上機嫌で温泉へ歩き出した。
目についたのはゆーとぴあ かつき≠フ看板。
幸い平仮名だったから読むことができたその文字は何度読んでもかつき、だった。
ユーリの家かもしれない。
もしかしたら会えるかも、一割の希望を胸に暖簾をくぐった。

でもやっぱりユーリは見当たらない。
「あ、この子預かっててもらってもいいですか?」
私はキャリーバッグとは別のかごを取り出した。
そこに入っていたのは一匹のハリネズミ。
「わ〜、可愛いですね。もちろんですよ」
「ありがとうございます」
そしてちょこんと座っているそのハリネズミの頭を軽く撫でた。
「少し待っててね、ヴァレリー」
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