夜空にかざしたブーゲンビリア

□序章
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彼女はフルーティストだ。
一応ピアノが弾けて、作曲が好きなロシア人のフルーティスト。
16歳になったエヴァは、ついにプロデビューを果たした。
世界的なコンクールでの優勝、チャリティーコンサートへの参加、CDの発売、雑誌でのモデルや対談特集、テレビCM出演。
彼女は日に日にロシアで、世界で有名になっていく。
もちろんその陰では音楽評論家からの批判もあった。
若いというだけで有名になった、そんなレッテルも張られた。
それでも彼女はそんなこと気にせず自分の道を突き進んでいた。

それなのに、音大卒業とともに活動休止を発表した。
その発表をヴィクトルは大会からロシアに帰ってくる飛行機の中できいた。
帰ってすぐに彼女の家に向かったが彼女はもういなかった。
ツイッターには空港のロビーが写っていて、「世界を見てたくさんのことを学んで来ます」とそれだけ。
いつも一緒だったヴィクトルにはなんの知らせも入れずに旅だった。

ヴィクトルからの電話には一切でなかった。
毎日更新していたSNSは更新されなくなった。
たった一日を除いては。
その月の最終日、彼女は生存確認と銘打ってその月にいた国の空港のロビーの写真を撮って「今月も元気に生きてるよ」そう陽気にツイートしている。

最初はヴィクトルも酷く怒って悲しんで、拗ねていた。
けれど半年がたったころには時折悲しそうに遠くを見つめること以外はいつも通りになっていた。
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