時渡りの天使

□二
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「皇子、失礼いたしますよ」

調子麻呂さんと私はある一室で立ち止まった。彼が一声そう言って、中の主の返事をまつ。が、声は返ってくることはなかった。

部屋に居ないのでは。
調子麻呂さんの顔を伺うと、彼は強硬手段だと部屋に入り込んだ。声をかけたものの、勝手に入ってよかったものだったのだろうか。

彼の後に続いて入ると、弱く脆そうな体がぐったりと倒れていた。

「皇子!!」

調子麻呂さんは彼の元に走り寄ると、抱き起こす。
どこか疲れた表情で、顔色が悪い彼は調子麻呂さんの声に起きようとしない。

これは不味いのではないか。

私も恐る恐るというように、皇子の傍に膝をついた。

「…失礼」

彼のおでこに、無造作に左手をおいた。
その動作に調子麻呂さんは目を見開いた。

「何をしているんだ!?」
「何って、熱があるか確かめてるんですよ。顔色が悪いから風邪でも引いてるかも知れないじゃないですか」

熱はないみたいですけど。
息をついて、彼から手を離すと連動するかのように瞼がゆっくりと開いた。

「…なんだ」

青白い顔が、調子麻呂さんを捉えると不機嫌そうに眉間を寄せる。
凄く血色が悪い顔をしているけど、この人大丈夫なんだろうか。

「どこかご気分でも悪いのですか?」

調子麻呂さんの問いに、ため息を吐き出した彼は抱かれている腕から起き上がった。

「眠かっただけだ。昨夜は調べたいことがあり遅くまで巻物を読み更けていた」

確かに文机と思われる処に、山積みにされた巻物が無造作に置かれている。
何か、時代を感じたのは気のせいだろうかと私は首を捻る。スマホがあれば大体はわからないことがすぐにわかってしまえる気はするけれど。

「…女」

顔の右側面から、鋭い視線を感じて目を向けると半分メンチ切られるような睨みが出迎える。

「私が態々お前を呼んだのはわかるな?」
「…わかりませんけど」

即答すれば、目の前の2人は口を噤んだ。

「それより、私のバック返して下さい。スマホないと友達と連絡できないし」

私は皇子に向かって手を差し伸べて、返すように催促する。彼の顔が段々曇りがちになってきているのは気のせいだろうか。


「…調子麻呂、ここから外せ。私はこの女と2人で話したい」
「しかし、皇子……」
「何度も言わせるな」

どこか納得していない表情は、私を一瞥すると何か言いたげに口を開く。
が、皇子の睨みに負けるように調子麻呂さんは部屋から引き下がっていった。


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