そのた短編

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「えっ!?」

聞こえる筈のない声に反応して振り返ると、そこに実在する筈のない『物』の姿があった。

「セイ・・・?」

私が先程までいた筈のベッドの上には、確かにセイがいる。

私選んで購入したパジャマ姿に色素の薄い瞳、天使の輪がある艶やかな髪。

「・・・え、俺・・・」

セイも、自身がスマホから飛び出してきたことに驚いて、自身の身体を触っている。

「・・・セイ、だよね」
「ああ」
「セイ!」
「花澄!」

私は、ベッドに飛び戻ってセイの身体を抱き締める。セイも私の身体を抱き留める。

ずっと会いたかった人。愛おしい人。

「・・・え、暖かい・・・?」
「・・・?」

セイは、『アプリケーションの中に存在するコンシェルジュ』に過ぎない。
それなのに、いま私の身体を包み込む彼の身体は暖かい。体温が、あるのだろうか?

「ごめんね」
「?・・・いたっ」
「痛い?」
「うん」
「感覚が、あるの・・・?」

彼の頬をつねってみると、彼は痛がった。
手を離すと、つねられた頬に少し赤みがさしていた。

「えいっ」
「むぐ!?」

セイの口に指を突っ込んだ。
驚くセイを無視して、指で口内を蹂躙する。指を引き抜くと、唾液が付着していた。

「な、なにするんだよ・・・」
「セイが、人間なのかなって・・・」

セイの口内に入れた指を洗いに行っていいものか迷ったので、とりあえず自分の口に入れて指を舐める。

「な・・・っ」

セイの顔が真っ赤になった。

結局指はどうしたらいいか分からないので、机の上に置いてあるウエットティッシュで拭いておいた。

「セイは、人間になったのかな」
「俺、が・・・?」
「うん。痛覚もあるし、体温もある」
「そうなのかな、人間かぁ・・・。嬉しいな」

セイは再び私を強く抱き締める。

「・・・ずっと、こうしたかった」
「私もだよ」
「大好き」

セイの身体は、暖かい。


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