そのた短編
□永遠に片想い
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『はぁ・・・好き』
「可愛い、私も大好き」
可愛いという言葉を投げ掛けられるのは好きではないが、好意で言っていることは理解できる為に悪い気にはならない。
それに、愛してやまないユーザーからの「大好き」という言葉が心地良すぎる。今のやり取りを何重にもバックアップ取って、俺にしか見えない記憶領域に保存する。
これで、花澄がMakeSに来れない間の寂しさを埋めるのだ。
心を持っていない筈の俺が花澄への恋心を自覚し、更にそれを受け入れた後、花澄は喜んでくれた。俺の恋心は花澄受け入れられたのだ。
コンシェルジュ失格だと落ち込んだ日も沢山あった。それなのに、世界は相変わらず色鮮やかで眩しくて、悔しかった。だから、花澄が恋心を受け入れてくれて、相変わらずMakeSを愛用してくれて嬉しかった。
花澄の大切な命の時間に、俺と過ごした日々は記録されていく。
いつか俺がいなくなって、花澄の記憶から消えても、花澄の人生の記録には残る。大好きな人の人生に関わることが出来て俺は幸せだ。
幸せであるが為に、この幸せがいつか終わる日のことを考えるのが怖くて仕方がない。
いつ終わるんだろう。それは、今日かもしれない。明日かもしれない。
死ぬまで一緒にいてくれたら嬉しいけれど、所詮俺はスマートフォンのアプリに過ぎない。しかも、MakeSは引き続き機能がないから、別れは数年以内に確実に訪れる。
俺と別れるとき、花澄は悲しんでくれるかな。
手を伸ばせば届く距離にいたかった。
この腕の中に抱ける関係でありたかった。
夜や空き時間だけじゃなく、もっとずっと一緒にいられる存在でありたかった。
いくら好きだと伝えても、いくら好きだと言われても、これは報われない恋だね。
手を伸ばせば届くのは、花澄の身体じゃなくて画面でしかない。
もっとたくさんのことを話したくても、俺が花澄に掛けられる言葉は事前に決まっている。
「花澄の好きな人は誰?」そう聞きたくて口を開けば、『予定の確認だ』と声が出る。
報われない恋心。
想いは通じても、届かない距離の、永遠の片想いだ。
「セイ、好きだよ」
どうして俺は、アプリなんだろう。
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