そのた短編

□椿は落ちる
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ポトリ。ポタッ。

椿の花は落ちる。花弁と雄蕊が1つ繋がっているから、花弁だけが散ることなく全て一緒に落ちるのだと言う。

落ちた椿達が、道行く人々や自動車に轢かれて道路に無残に散らばる姿には心が痛む。

落ちて踏まれ続けたであろう椿をなるべく踏まないように歩道を歩く。
歩いて歩いて、今日も私は地獄に向かう。

×××

カラカラと、なるべく音を立てないように生徒会室の扉を開けて中に入る。

勿論、肌寒い時期だけれど暖房なんて入ってない。
寒い方が感覚が鈍るから助かる。

「・・・椿くん」

声を掛けると、光を失った目を向けふらりふらりとこちらに歩み寄るのは、我らが開盟学園の生徒会長 椿佐介だ。

「おはよう、椿くん」
「・・・花澄」
「う・・・ん」

痛い、そう思っても声すら出せない程強く抱き締められる。肺から空気が押し出されるような感覚。

「僕は・・・僕は、もうダメだ」
「・・・ッ」
「ああ、すまない」

泣きそうな顔をした椿くんの腕から解放され、漸く空気を体内に取り込める。酸素が身体の隅々まで行き渡るような感覚がする。

「花澄、頼む。僕と死んでくれ」
「医者の息子が何を・・」
「・・・ダメなんだ」
「ちょっ、と」

椿くんが私の首元に手をかける。
そのまま締められてまた空気が取り込めない。

またか。私の首元の痣はいつから消えなくなったんだろう。

あと数分で酸素が足りなくなって私は気絶する。そうなると椿くんは我に返って首を締めるのをやめてくれる。

殺したいなら動脈を押さえて仕舞えば私はあっけなく死ぬだろうに、それをしないのは椿くんがまだ本気で死にたくないからだろう。

何が椿くんをここまで陥れたのだろう。
家庭事情?進路?人間関係?

明るくて正義に燃えていた彼の姿はもう見えない。


意識がぼんやりとしてきて、力が入らない身体が床に落ちそうになる。
ああ、もう無理だ。椿くん、私の意識がなくなったら解放してくれるって信じてるからね。

そう心の中で呟いて意識を離した。


×××

「おーっす、椿、何し・・」


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