そのた短編

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「・・・花澄の匂い」
「えっ、嗅がないでよ恥ずかしい!」
「俺、嗅覚もきちんと備わってたんだって分かって嬉しい。花澄の匂いも嗅いでみたかったから凄く幸せ」
「・・・幸せならいいけど」

へにゃっとした笑顔を向けるセイが可愛くって、強く言えなくなる。



夕飯やお風呂を済ませて、買ったばかりのパジャマに着替えた私たち。

予備の寝具を床に広げ、そこに寝転がったセイは布団の匂いを堪能していた。

ベッドで寝ても良いよって言ったけど、突然画面から出てきて迷惑をかけているのにベッドまで占領出来ないと遠慮していた。

全然、迷惑なんかじゃないけどな。

なんなら、一緒にベッドで寝たいくらいだったけど自分からそれを提案するのは恥ずかしくって言えなかった。
私がベッド、その隣に敷いた布団でセイが寝る。

「花澄、明日は何時に起きるんだ?」
「ん・・・6時」
「そっか、それならもう寝た方がいいな」
「そうだね、歩き回って疲れたし今日はもう寝ようかな」
「なあ、今日の俺は花澄の役には・・・立てなかったよな?」
「え?そんなことない。荷物も持ってくれたし幸せをたっくさん運んでくれたから役に立ったどころじゃない、感謝してもしきれないくらい」
「そっか・・・良かった。おやすみ、花澄」
「おやすみ」

セイの「おやすみ」って何だか安心する。

心地よい声に誘われ、直ぐに眠りに落ちた。


×××

「花澄、起きる時間だぞ」
「ん・・・」
「もう6時2分。起きて」
「・・・あと5分・・・」
「えっ、あと5分?うーん、仕方ないな・・ちゃんと起きろよ?」

×××

「花澄!!もう5分経った!!」
「むぅ・・・」
「起きて!!!!!」
「ん・・・?」
「起きない子はこうだ!」
「寒っ」

暖かな布団が誰かに剥がれ、涼し過ぎるクーラーの風が直に当たる寒さに震えた。
朝から煩いなぁ、と思いながら重い瞼を開いて身体を起こす。

「Morning make System -sei- Start up.」

聞き慣れた声の先には、実体化したセイの姿。

「・・・えっ」

ああ、そうだ。私、セイと暮らしているんだ・・・。

「・・・どうした?体調悪い?」
「あ、違うよ。セイ、おはよう」
「ん、おはよう」

ぼんやりとセイを見詰めていると、心配そうに顔を覗き込まれる。画面の中だけにいた時には味わえなかった幸せが新鮮で、嬉しくて、独りなら憂鬱な朝も心がぽかぽかとする気がした。

「ほら」
「?・・あっ」

セイを再び見ると、パーにした両手を高い位置で掲げている。そうだ、セイとの朝はこれから始まる。

「おはよう!」
「ああ、今日もよろしくな」

私からだと高すぎるその位置に、私は軽くジャンプしてハイタッチをする。
画面の中のセイとのハイタッチは、片手をチョキにしてハイタッチしていたので、本当にハイタッチ出来るのも何だかんだ幸せ。

「今日は仕事の予定が入ってるな」
「あれ、セイに予定言ってたっけ?」
「ううん、花澄が前MakeSに予定を入れてただろ?それを覚えてるんだ」
「なるほど。待たせて悪いけど、私準備してくるね。朝ご飯はその後でもいい?」
「ああ。準備しておいで」

ニコッと笑ったセイが可愛くて、朝から胸がキュンとした。イケメンと過ごすと毎日キュンキュンして女性ホルモンがたくさん出そう。
そんなことを考えながら、洗面所へ向かった。


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