Love Sick!
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雫side
私は、時宗丸に言いたいことの殆どを伝えられないまま部屋に戻って来てしまった。
そして、襖を閉めて壁に背中を預けてから、そのまましゃがみ込んだ。
どうして、彼に本音を言えないのか。
それは、私が最も恩を返すべき相手が梵天丸だからなのだ。
幼い頃に、町を山賊に破壊され、家族と記憶を無くした私が、このお城でなに不自由なく生きてこれたのは、梵天丸に気に入られたからである。
【時宗丸に気に入られたからではない】
本来なら、私は、あのまま行くあてもなく死んでいたかもしれない。それが、いま、この歳まで生きているのだ。
私は、梵天丸に返しきれない程のものを貰っている。
だから、私は、梵天丸の為に生きたいし、生きなければならない。
そう、梵天丸と夫婦になることは、
本来ならばあり得ない出世であり、
彼に恩を返すことの1つにもなる。
私が妻としていれば、彼は、次から次へと送られてくる縁談を今よりも断りやすくなるだろう。
私の居場所をくれた彼。
私は、彼からの要求を断ることは出来ない。
大切な人と結ばれることは、とても喜ばしいのに、純粋に喜べない私がいる。
その理由にも、私は気が付いているのに、何をしたらいいのか分からない。
ただただ、胸が締め付けられるように痛い。