あるけみすと短編

□媚薬の恋
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「・・・絶対あのハゲ許さないから・・・!」

日没の時間もとっくに過ぎ、退勤したのは定時を大幅に過ぎた夜の9時。

水菜は、明日出勤したら、今日散々な目に遭った原因であるハゲ上司に対し、いかに故意を感じさせずに嫌がらせという名の反撃をするか考えながら1人歩く。

街灯や深夜まで営業する店が比較的多く、舗装されて歩きやすい道。
それでも、女性が1人歩いて帰るには心許ない。

普段なら、少しの足音だって気付けるしふらっとコンビニに寄る振りをして逃げることもできる。

けれど、頭に血が上っている彼女は、自分の後ろにせまる足音になかなか気付かない。


「・・・あいつの机、使い古したボロ雑巾で拭いてやるんだから・・・!」

「水菜」

「・・・え?」

夜道で背後から突然自分の名前を呼ぶ男の声。

一瞬、まさかいま考えていたハゲ上司かと思うが、自分のことを名字ではなく名前で呼ぶはずがないし、仮に呼ばれたら今までの恨みと一緒にセクハラとして上に相談に行ってやる。

それに、クソハゲ上司の声はこんなに若くない。

一体誰の声か分からず、嫌な汗が水菜の額を伝う。
バクバクと心臓が鳴り、呼吸は無意識のうちに止まる。

ギギギ・・・と、壊れかけの玩具の様に少しだけ首を後ろに回して背後の人物の顔を視界に入れた。




「・・・・あ・・・・っ」


「久しぶりだな」



ぴたりとくっつくように立っていたのは、

彼女の鎖骨に噛み付いた男  志賀直哉だった。



×××


「なっ、なんでいるの・・・」
「アンタの血の味が忘れられなくてな」

街灯しかないほの暗い夜道でも、
志賀の顔の良さははっきりと分かるし、見せ付けるかのような舌舐めずりに水菜はあの日のことを思い出してゾクリと背が粟立つのを感じた。


「とりあえず、帰ろうぜ」


志賀が男の色香の強い吸血鬼の顔を見せたのは一瞬で、場に似合わないようなカラッとした声で言う。

「・・・そうね」

水菜は、ちらりと腕時計を見た。

早く帰って寝ないと、明日に響く。



×××

得体は知れないのに、1度身体を(血を?)許した好みの男のことを水菜が警戒なんてするはずもなく、帰宅してさも当然かのように部屋に入れる。
志賀も、ここが自分の家だとでも言わんばかりに普通に部屋に上がるし、前回同様、しっかりと鍵とチェーンもした。

「腹、減ったろ?」
「・・・うん。でも、」
「なんだ、やけに赤いな」
「・・・そんなつもりじゃ。でも、身体が勝手に・・・」

前と同じように、キッチンに行こうとした志賀を水菜は引き留める。
弱々しく彼の仕立ての良い服を引っ張り、身長差のせいで上目遣いで見詰める。

そんな水菜を見て、志賀は口角をあげる。


水菜が顔を赤らめ、膝を合わせてもじもじする理由を彼は知っている。

前回自分が唾液に混ぜて飲ませた麻酔。
彼女が痛がらない様にする為でもあったが、
媚薬効果が非常に強く快感を感じやすいこと。

そして、吸血鬼に血を吸われるたびに、その吸血鬼に対し劣情を抱く様になること。


規定量よりも多く媚薬効果のある麻酔を飲ませたのはもちろん故意であったが、たった1度しか血を吸っていない水菜がわかりやすく効果を発揮しているのが志賀にとって非常に愉快だった。


「・・・あっ」

志賀は、右手を水菜の後頭部を支え、
噛みつく様なキスをする。

ぺろりと唇を舐めれば、期待するかのように軽く開いている唇を割って舌を突っ込む。

「・・んっ・・ふぁ・・っ」

左手は水菜の腰に添え、自分の下半身とくっつける。

最初からそのつもりで家に上がったため、早速ゆるく主張し始めた股間を、わざと彼女の股間の辺りに押しつけてゆっくりと擦り付ける。

舌は彼女の舌を捕まえて、吸い上げたり、また今回もさりげなく自身から自然に作られる媚薬効果のある麻酔成分を含む唾液を彼女の口内に押し込んで飲ませる。

顔を赤くして、きゅっと目を瞑り、大人しく与えられる快感に身を委ねる水菜。

これは前回より楽しめそうだと、志賀は内心笑う。


「・・・はっ・・くるしい・・」

やっと唇を離すと、顔を真っ赤にして目を潤ませた水菜が志賀の顔を見詰める。


「襲って欲しいなら抱いてやるけど」

以前にも吐いた台詞を、わざとらしく耳元で言う。

「・・・っ、抱いて、欲しい・・・」

勿論、答えが否であっても抱くつもりであった。


志賀は、彼女を横抱きしてすぐそこのベッドまで運ぶ。

初めて横抱きされたらしい水菜はあわあわしているが、そんなことは気にしない。

彼の脳内はどうやって彼女を快楽の海に沈めるかしかし頭にないのだ。
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