*人魚姫の涙の意味は……*

□九章《忘れられない笑顔》
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この人を敵に回しちゃいけない気がする……。

だけどそれより、百さんの元気がないということが私には大事だった。


「モモのこと、心配?」


こくりと頷く。


「柚葉ちゃん、僕はね、いつもあいつに助けられてばかりなんだ。あいつがいなかったら今の僕はいないし、歌ってもいなかったかもしれない。モモはそんなこと思っていないかもしれないけれど、僕は今Re:valeとしてあいつと歌えていることを本当に誇りに思っているし、感謝もしてる。だから僕はモモに、普段周りをハッピーにすることをだけを考えているあいつに、世界で一番ハッピーになってほしいって思ってるんだ」


『千さん……でも、私は……百さんとは違います。だって私は、他のファンの子たちのようにライヴで彼の名を呼ぶこともできない、彼女たちのようにあなたたちの歌を口ずさむこともできない、好きな人に、好きと伝えることもできないんです……そんな欠陥だらけの私が、あのRe:valeの百さんとなんて……』


「欠陥だらけなんて言ったらだめだよ。確かに君は言葉を出せないかもしれない。ほかのファンの子たちと同じことはできないかもしれない、だけど、君にしかできないことがあるんだよ、それは僕にもできない」


千さんにもできないこと?
そんなこと想像もできない。


「君といると、モモが面白い顔するんだ」


え?


「僕がこれまで見たことない顔をモモにさせられるのは君だけだよ」


『それってどういう……』


「そろそろ僕も仕事があるから行かなきゃなんだ、柚葉ちゃんの気持ち聞けて良かったよ。人魚姫に取られるならまぁ僕も少しだけ許せるかな」


千さんは私の食べ終わった食器を片付け、私にベッドに入るように促した。


「あ、そうだ、言い忘れてた」




「柚葉ちゃんは声が出ないことを一番気にしているんだよね、もし僕でよければいつでも力になれると思うからよかったら連絡して」


ラビチャのIDを書いた紙をテーブルに置いて、彼は去り際もかっこよく去っていった。


Re:valeの千さん、本当に百さんが溺愛するのも分かる。

あんなに綺麗な人がこの世界に存在するなんて、そう思えるほど本当にイケメンだ……だけど、僕なら力になれるってどういうことだろう……。


千さんのおかげで薬も飲めたし、三日は休めるから少し自分の気持ちに整理をつけよう。
千さんはあぁやって言ってくれたけれど、やはりどう考えても百さんに私は相応しくない。

私より彼をハッピーにできる女性はたくさんいるのだから……。


『僕がこれまで見たことない顔をモモにさせられるのは君だけだよ』



千さんの言葉が頭から離れない。

薬の副作用で眠くなってくる私の脳内で、無意識に浮かんだのは八重歯が特徴的なあの人の笑顔だった……。


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