*人魚姫の涙の意味は……*
□十章《届かない想い》
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え、俺何かした?
柚葉ちゃんの頭をつい撫でれば、彼女はいきなり帰ると言い出してしまった。
そんなに嫌だった!? うそ? 嫌われてはないと思ってたのに調子乗りすぎた!?
送るといったのに飛び出して行ってしまう柚葉ちゃん。
あんなかわいい子をこんな時間に一人で返すなんてできるわけがない。
ユキにご馳走様をいって慌てて追いかけて必死に車に乗せた。
しぶしぶ乗ってはくれたけど、いつもと違ってこっちを見ようともしてくれない。
柚葉ちゃんの家にはあっという間についてしまい、彼女はスマホでお礼を言ってきた。
のにそのあとに続いた言葉ははっきりと俺を拒絶する言葉だった。
『離れたところで応援させていただきます』
離れたところで? それってもう会わないってこと?
別に好かれてるなんて思っていない、だけど、嫌われては無いし、少しチャンスもあるんじゃないかと思ってた。
だって俺が触れるたびに顔を赤らめて、気づかれないようにして、だけど笑ってくれて……
そんなの嫌で柚葉ちゃんを引き留めようと俺はこの想いを伝えようとする、なのに彼女は一方的に俺を突き放そうとする。
楽しくお喋りもできない?俺はそんなこと気にしたこと一度だってない、声はきけなくても柚葉ちゃんが隣で笑ってくれるだけで俺はすごくハッピーになれるのに。
悪くもないのに必死で謝る彼女の姿がこれが現実だと突きつける。
こんなあっけなく終わってしまうもんなの?
俺のこの気持も伝えられないまま?
こんな泣きそうな柚葉ちゃんの顔が最後にみる表情なんて俺はどうしてもいやだった。
最後なら、せめてこの気持だけでも、、この柚葉ちゃんを好きって気持ちだけでも伝えたい、そう思ったのに彼女は一言俺に画面を見せて車をでようとする。
「柚葉!!」
俺は咄嗟に彼女の名前を呼んで腕の中に閉じ込めた。
失いたくない、頼むから俺の話を聞いてほしい、こんなの絶対嫌だ。
俺は……
「……は…なしてください」
「え?」
聞き間違い、じゃない。
確かに俺の耳に入ってきたのは少し掠れた、鈴のような綺麗な声。
その声がどこから聞こえたのか、俺が理解するころには彼女は俺の腕を出て部屋の中に戻ってしまった。
今、確かに聞こえた。
か細かったけど、掠れていたけど確かに……。
車から出ていくとき、彼女は泣いていた、それだけはしっかりと脳内に焼き付いていて……。
「最初に聞いた言葉が、離してください……か」
俺は座席に身体の全体重をかけて脱力した。
こんなに好きなのに、これから少しずつ距離を縮めてちゃんとしたところで告白して、彼女に笑ってほしかったはずなのに。
「俺がRe:valeの百じゃなくて、ただの春原百瀬だったら、違ったのかな……」
そんなこと思いたいわけじゃない。
Re:valeになってユキの隣で歌っていることはすごくすごく幸せなことだ。
思いたいわけじゃないのに……。
「初恋って叶わないって本当なんだな……」
溢れてきそうになる涙を必死に堪えることしか俺にはできなかった。