*人魚姫の涙の意味は……*
□一章《歌は雨の音にかき消されて……》
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早く家に帰ろう、そう思ってたのにいきなり空から雨が降ってきた。
私の今は嫌いな歌を、雨の歌が飲み込んでいく。
今日は晴天っていってたから傘なんてもってきていない、購入も考えたがもったいないので近くの屋根で雨宿りすることにした。
ついてない……こんな雨の日はあの日のことを思い出してしまう。
つい声を出そうと口をあけたが出たのはただの掠れ声だ。
やっぱり出ない……今更試しても無駄だとわかっているのに、たまにこうしてしてしまうのはやっぱり心の中でもう一度歌いたい、と思っている気持ちがあるのかもしれない。
一人でため息をついていると、目の前に人影が立ったのが分かった。
傘をもっているらしい、音で分かった。
でも目の前に立たれるとなんだか怖くて顔を上げられなかった。
体系的に男、だろうか?
目の前にずっと立っているのか、動こうとしない、決まづくて怖くて私は恐る恐る顔を上げた。
怪しい人だった。
黒いサングラスにフードをすっぽり、服はおしゃれだけど、耳につけたピアスや、マニキュアの塗られた爪を見ると、明らかに怪しい人、もしくはやばい人だ。
あの……と声をかけたいが、私は声が出ない。
周りにいつの間にか人気は少なくて、私はどうしようと思い周りを見渡した。
やばい、逃げた方がいい。走るしかない。
そう決心した時だ。
彼がいきなり目の前で笑い出した。
何で笑っているのか分からない、のに、彼は「ごめんごめん」と謝りながら私に傘を差しだしてきた。
「今日オフでたまたま歩いてたら困ってる可愛い女の子見つけちゃったからほっとけなくて!怖がらせてごめんね!? この傘、良かったら使って?」
そういって差し出してくるが、見ず知らずの人に傘を借りたところで返せないし、何より悪い。
首を振って断るが、彼は譲ろうとしない。
「雨、しばらくやまないみたいだし、俺家もうすぐ近くだしさ!フードもあるからそんなに濡れないから大丈夫!!ね?」
あぁ、、これは折れてくれないやつだ。
そう思って私は仕方なく傘を受け取った。
返すときのために連絡先を……と思ってメモを取り出したが、私がそれを書くより先に
「じゃあ風邪引かないようにね!!」
そう言って雨の中を走って行ってしまう。
足が速いのか、彼はあっという間に見えなくなってしまい、残された私はその傘と彼の消えた先を交互に見比べることしかできなかった。