*人魚姫の涙の意味は……*
□六章《気付いてしまった……》
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離れた百さんに私はなんて返していいか分からなくてついうつむいてしまう。
沈黙が流れてしまい、私はとっさに百さんに『人魚姫の話、知ってますか?』と問いかけた。
すると百さんは知ってるよ!と返してくれる。
私は少しだけ悩んで、続きを打った。
『さっき陸さんが人魚姫みたいだって言ってくれて急に思い出したんです、ほらここも海だし……』
「そうだね、陸はでも決して声が出ないことだけを指していったわけじゃないとおもうけど」
『へ?そうなんですか?』
「柚葉ちゃんが思ってるより、柚葉ちゃんがそれだけ美人で可愛いってこと!!!」
そ、そんなことあるわけないのに、百さんに言われるとどうしていいか本当に分からなくなる。
なんだか今日は変だ。
手を繋いで手が熱くなって、ドキドキして、私、やっぱり百さんのことが……
そういえば!!私は今まで忘れていたことを思い出して慌ててカバンを探る。
百さんがどうしたの?と聞くと同時に、作ってきた桃とリンゴのマフィンを彼に差し出した。
『約束したので。ネットで調べたら百さん、モモリンゴジュースが好きって書いてあったので、桃とリンゴのマフィンにしてみました』
「ええぇ!!本当に作ってきてくれたの!?」
もちろんですと答えると百さんは嬉しそうに包みを開ける。普段は仕事で食べてもらえてるけど、目の前で食べてもらうとなると話は別だ。
少し小さめだったマフィンは百さんの一口で半分の大きさになっていた。
百さんはもぐもぐしたのち、その残ったマフィンも一口で食べてしまう。何も言われないからもしかしたら美味しくなかったのかも……。
『美味しくないですか?』
そう聞くと二つ目を食べようとした彼はびっくりしたようにきょとんとした。
「そんなわけないじゃん!美味しすぎて止まらなくなっちゃってたとこだよっ!俺の大好きな味だし、これなら毎日でも食べたいくらいだよっ!」
気付いてしまった。
笑って私の作ったお菓子を食べてくれる百さんを見て分かってしまった。
「でも本当に美味しいよこれ!!」
『それならよかったです、あの、また作ってきてもいいですか?』
そう聞くと百さんは食べる手を止めた。
迷惑だったかもしれない、彼は国民的アイドルで忙しい人なのだ。
そんなまた会いたいなんて……
感じたのは思ってたよりも大きくてあったかい手で、その手は私の頭を優しくなでてくれた。
「もちろん、また作ってきてくれたらすっごく嬉しい!」
夜の浜辺なのにはっきりわかる太陽のような笑顔。
知りたくなかった、なのに、私ははっきりわかってしまった。
あぁ、私、この人に恋をしているんだ……。