*人魚姫の涙の意味は……*
□九章《忘れられない笑顔》
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玄関で会って、私が固まって、彼は「お邪魔します」といって部屋に入ってきた。
とめようとしたがその前に私の足がもつれて、千さんは私を軽々と受け止めてくれた。
そのまま勢いで部屋に戻され、こんなお粗末なキッチンでお粥を作ってくれて今に至る。
じっと見られているのはなんだか食べづらくてちらっと見れば、すごく、本当にすごくきれいな顔で「早く食べなよ」と微笑まれてしまった。
仕方なくレンゲで少しだけすくって食べれば、ふわりと優しい出汁の風味が美味しくて、私は顔が緩むのを感じた。
すっごく高級なお粥を食べているみたいだ、うちの食材でこんなものが作れるなんてやっぱり彼は只者じゃあない。
「そういえばうちのモモのこと振ったんだって?」
身体が音を立てて固まった。
目の前の千さんは変わらず優しく微笑んでいてくれている。
昨日会ったばかりの千さんがうちに来るなんてとは思ったが。まさか直球でその話題を振られるとは思わなった。
「ごめんね、僕回りくどいのは嫌いなんだ。それで、モモのどこかダメだったの?」
『駄目なんて!そんなところあるわけがないですっ』
私はついスマホでそう打って千さんに見せた。
百さんにダメなところなんてあるわけがない、全部私が悪いのだから。
だけどその画面を見せた時の千さんは私の思っていた反応ではなく、静かに笑っていた。
「ははは、いや、まさかそんなに全力で否定されるなんて……よかった、モモのこと嫌いになったわけじゃないみたいで」
あ……つい恥ずかしくなって俯けば、彼は「顔を上げてよ」と言ってくれた。
「柚葉ちゃんは、モモのことが好きなんだね」
『そ、そんなことないです』
「顔に出てるよ。僕もモモのことが大好きだからなんとなく分かっちゃうんだよね」
駄目だ、この人には嘘をつけない。
全部ばれている、そう思った私は観念して頷いた。
「モモが、アイドルじゃなくてもしふつうの一人の男だったら柚葉ちゃんはそんなに悩まなくて済んだんだろうね。僕たちRe:valeのことを思ってモモとさよならしたんだろ?」
ば、ばれてる……。
私はつい返す言葉をなくしてしまい、今更だが千さんに今日来られた理由を無理やり聞くことにした。
千さんは私が話を逸らしたのを理解しつつも私の質問に答えてくれた。
「それがうちのモモがさ、仕事の合間に柚葉ちゃんの職場に行ってさりげなく聞いたら風邪で休んでるって聞いたみたいで、そのあとのMCの仕事もこなしてはいたけれど僕からみたら元気もないし、いつものモモらしくもなくてね、僕なりに推理してみた結果、柚葉ちゃんと昨日の帰りに何かあったのかなって思い立ったんだ。あ、住所はちょっと調べさせてもらったけどね」