*人魚姫の涙の意味は……*
□二章《傘を貸してくれた彼は……》
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あの雨の日から一週間が経った。
借りた傘は今でも私の玄関に置いてあっていまだに返す目途が経っていない。
まず借りた相手が分からない、そして連絡先も知らないから返しようもなくて本当に困っていた。
今日は仕事もお休みで久しぶりに買い物でも行こうと思って、私は髪をといていた。
昔からずっと伸ばしているピンクブラウンの髪は地毛なのによく染めていると先生に怒られてばかり。
嫌いで何度も染めようと思ったが、大事な母と同じ髪色だから大事にしたくて今でもこのままだ。
今日はこの間買ったばかりの貝殻をモチーフにしたピンを編み込みにつけて、白いワンピースを着て、姿鏡の前でくるりと回ってみる。
彼氏もいないのにこんなお洒落しても、って思うがやっぱりお洒落は好きだ。
少しいつもと違う髪型、いつもと違う髪色、それだけで別人になったように思える、自分の嫌いなところからも少し目を逸らせる気がする。
スカイブルーのパンプスを履いて玄関を出ようとするところで例の傘が目に付く。
今日は雨は降らないし、持っているのも変な人に見られるかもしれない、それにあの人に会えるとは限らない。
私は傘を置いて、家を後にした。
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買い物も一通り終えて、なんとなくぶらぶらしていれば、あの日、知らない人が傘を貸してくれた場所が目に留まった。
あの日からあの時間に合わせて何度かここに寄ってみたが、なかなかあの人には会えない。
それにあの日はサングラスもしてたし、フードも被っていて顔も何も分からなかったからこっちから気付くのも難しい。
そもそも言葉をしゃべれない私は自分から声をかけることもできない。
いきなり肩をたたいたりして私のことをもし覚えていなかったらそれだけで怪しい人だ。
あの傘、結構高そうだけどなぁ、あんまり見ないデザインだし、やっぱり無理やりでも返せばよかったかなぁなんて思っていれば、ちょうど私があの日雨宿りしていたところで似たような恰好の人を見つける。
ちょっと色が違うがパーカーにサングラス、背丈もあのくらいだった気がする。
うーん、同じ人かなぁ……
悩みながら少し近づいてみるとこっちを見た。
しばらくじっと見られたのち、彼はこっちにむかってぶんぶん手を振ってきた。
やっぱりあの時の彼みたいだ。
私は少し速足で駆けて行って、お礼を言おうとおもったが声がでないことを思い出し、スマホを取り出して早めに「この間はありがとうございました」と打って彼に見せた。