*人魚姫の涙の意味は……*

□六章《気付いてしまった……》
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「んー、海風が気持ちいいね!!」


水族館のすぐ近くにある浜辺に私たちはいた。

閉館してから百さんに連れられてきたのはこの浜辺だった。夜で人気もないので、百さんは帽子とサングラスをとって夜風にあたっていた。


「今日は楽しかった?」

『もちろんですっ!本当に百さんとここにこれてよかったです』


そう返すと、百さんは少しだけ罰が悪そうな表情を浮かべた。

どうしたのだろうと思い、スマホに打ち込もうとしたがその前に百さんが私に「ごめん」と頭を下げてきた。

何で百さんが謝るのだろう。
首をかしげると、彼は少し恥ずかしそうに顔を逸らした。


「俺さ、今日結構二人でデートと思って舞い上がっててさ、別に陸と三月が嫌だったってわけじゃあないんだけど!今日は、柚葉ちゃんと二人で過ごしたかったっていうか……柚葉ちゃんのお弁当だってすっげーうまかったし、独り占めしたかったっていうか……だからなんか変な態度とってごめん!!」


よく見ると彼の顔は耳まで真っ赤だ。
こうやってみると、普通の男性なんだなって心底思う。

いつもテレビの中でキラキラしてて、手の届かない人に見えるけれどこうして一緒に過ごしてみれば彼だってどこにでもいる男の子と変わらないのかもしれない。

こうやって普通に手をつないで、水族館にきて、はしゃいで……。


「あのさ、俺じゃ柚葉ちゃんの力になれないかな?」


百さん?

そう打って見せると、彼は少しだけ俯いてなにか決めたようにこっちに向き直ってきた。


「柚葉ちゃんが何で喋れないのか、聞いてもいい?」


びっくりして私は携帯を落としてしまう。

百さんはこっちを向いたまま目を逸らさない、私の返答を待っているのだろう。

思わなかった一言に私は携帯を拾うこともできず、文字通り言葉を失う。

波の音がさっきよりも余計に大きく聞こえてなんだかさっきまで綺麗に思えていたのに急に怖く感じた。


どのくらい時間が経ったのか分からない、先に動いたのは百さんだった。

落ちたままだった携帯を拾って私に差し出すと「ごめんね!空気読めないこと聞いたよね!とりあえず今日は帰ろうか!」

そういって私に背を向けて歩き出す。

一瞬だったけど、すごく悲しそうな顔をしたのが私は見えてしまった。
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