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□*花言葉に想いを束ねて*
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「これ」
「え?」
「これ、受け取ってもらえますか?」
差し出されたのは先ほど私が仕立てた大きなバラの花束。
意味が分からなくてしばし固まったが、これまで百瀬さんが花束に注文した花を思い出して、私は彼より顔が赤くなるのが分かった。
「やっぱ、だめ?」
「そ、そんなこと!嬉しいですっ」
「でも名無しさんちゃんは千さんみたいなのが好みだしね!俺なんてダメだよね!!」
「そ、そりゃあ千さんは好きですが、現実と理想は違います!」
そういうと、百瀬さんは少しだけにやりと笑った。
「じゃあ現実なら百ちゃんにも可能性があるってことだよね!」
「え、百ちゃんって……」
彼が花束をもっていないほうの手でサングラスを取る。
そこにいた人物は、ここにいるはずのない人物で……。
「ユキのファンっていってたから俺じゃだめかなって思ってたけど、百瀬としての俺なら名無しさんちゃんも好きになってくれるかもしれないんだよね?」
「まさか、本物?」
「もち、ものほん」
「何で……」
「話すと恥ずかしいんだけどさ、たまたま見かけて一目ぼれ……ってやつ?」
「一目ぼれって、私なんかに……」
「その場で告白しちゃおーと思ってたら、名無しさんちゃん、ユキのファンだっていうんだもん。そりゃあ確かにユキはイケメンで、すごくすごくかっこいいけどさ!」
「でも、私なんて……」
「俺からこの花束を受け取れる人は幸せ、なんでしょ?じゃあ名無しさんちゃんのこと幸せにしたいからこの花束、受け取ってくれる?」
「私、どうしていいかわからなくて……まさかRe:VALEの百さんとは知らなくて……」
私が知り合ってたのは百瀬さんで、まさかだって……
「返事、いますぐにとは言わないから!とりあえず、ユキのファンじゃなくて俺のファンになってもらえるように頑張るからさ、ライヴ来てくれる?」
そういって差し出されたのは今度のライヴのチケット。
私は呆然としたまま花束とチケットを受け取った。
「じゃあまたくるから!いつも通り百瀬さんとしてこれからもよろしくねっ!」
颯爽とさっていく車を見送って私は手の中にあるチケットと花束を見比べる。
「え、嘘……うそっ!!!!」
私のこの絶叫が彼に聞こえていたら、きっと爆笑されていたことだろう。
胸の高鳴りを必死に抑えながら私はお店の中に逃げるように駆け込んだ。
「ライヴ、何着ていこう!!」
―百side−
「はぁぁあぁぁ、今日も渡せなかった」
「最近モモ、花束をもってスタジオにくるよね。それどうしたの?」
「いや、ちょっと花屋で妖精に出会ってさ……」
「妖精?」
ユキが首をかしげるのを見て、俺は慌ててごまかした。
「いや、こっちの話!とりあえずちょっと気になる花屋があって……」
「片思い、愛の告白、幸せな日々……」
携帯を見ながらつぶやくユキの意味を理解して俺は目の前の花束を隠そうとした。
が、もう遅かった。
「花言葉なんて、モモ、よっぽどだね」
「うぅっ、調べなくていいじゃんユキの意地悪っ!」
「それで、その花束は渡せなかったの?」
「それは……」
言えない。彼女がユキのファンだから言いづらいなんて……!!
「モモなら大丈夫だよ、勇気を出して渡しておいで」
「……そうかな」
「弱気なんてモモらしくない」
「ユキ……ありがとう、俺次は絶対ちゃんと渡すよ!」
「うん、がんばって」
End