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□*最高の一日を君に……*
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「名無しさん、寒くない?」
「あ、うん。大丈夫だよ!」
「それならよかった、でも身体冷やすとだめだから暖かいもの買ってくるね」
「あ、ありがとう」
そういってモモは近くの自販機まで走って行ってしまった。
「やっぱり変だ……」
彼は百、今絶大な人気を誇るRe:valeというグループの一人。
そして私の幼馴染。
明るく周りを常にハッピーにする彼はバラエティにも引っ張りだこ、昔はそうでもなかったが今ではこうしてお出かけをするのも大変だ。
変装としてサングラスとパーカーのフードを被って出歩かなければ大騒ぎになるくらい有名になってしまった彼だけど、多忙な中でもこうして一緒にいる時間を作ってくれている。
そんなモモのことが私は本当に大好きで、笑ったときに見える八重歯がとくに大好きだ。
だけどこの気持ちは伝えていない。
彼はもうたくさんの人に愛される存在で、私なんて届く相手ではない。
こうして幼馴染として出かけられるだけで贅沢というもの。
なのに、今日のモモはなんだか変だ。
服装だっていつもフード付きのパーカーにラフな格好が多いのに、今日はカジュアルな感じでサングラスもいつもと違ってシックなもので、ハット帽をかぶっていて、なんかこう大人っぽい。
まるでTRIGGERの八乙女楽のようなイメージのモモに私はずっと違和感を感じていた。
連れてこられた先もいつもはわいわい騒げて遊べるようなとこなのに、今日は水族館。
暗くて周りに気付かれづらいし、ハードな仕事で今回は疲れていたのかもしれない。
もしそうなら今回のお出かけは悪いことしたかな……
「おまたせ!!名無しさんは紅茶でよかったよね?」
「うん。ありがとう!!あれ?モモがブラックコーヒーなんて珍しいね、いつもモモリンなのに」
「あ、えっと、たまにはね!ほらモモリンばっか飲んでるとやっぱり太っちゃうかもしれないし!たまにはブラックコーヒーもいいかなぁと」
モモ、ブラックコーヒーなんて飲めたっけ……?
「でもモモは普段から三月君や龍之介君とよくスポーツしてるんでしょ?ダンスもあるし大丈夫だと思うけど!」
「まぁほらいいじゃん!それより、そろそろイルカショー始まるって!名無しさん、楽しみにしてたでしょ?」
「あ、そうなの!!ここすっごくイルカショーが有名らしくて……モモと見れて嬉しい!!」
あ、今の油断した……こんないい方したらモモだってさすがに分かっちゃう。
どうやって誤魔化そうか考えてたが
「俺も名無しさんと来れて嬉しいよ、行こうか」
モモは何も気づいていないみたいで席を立って歩いていいってしまった。
まぁそうだよね、モモにとって私はただの幼馴染だもんね、気にするわけがないか。
でも、やっぱり今日のモモは変だ、いつもなら私よりはしゃいでるはずだし、モモリン以外の飲み物を飲んでるとこだって見たの何年振りだろう。
「もしかして、彼女でもできたのかな……」
「? なにかいった?」
「ううん!なんでもない!いこっか!」
イルカショーは本当にすごかった。
私は終始叫びまくってて、感動してて、だけどモモは隣でどこか心ここにあらずで。
イルカショーなんてモモのほうが興奮しそうなのに。
携帯もちらちら見てるし、やっぱり彼女でもできたのかもしれない。
いつもと違う服装も態度もきっとその子の趣味なんだろう。
確かにかっこいいけれど、私はやっぱりいつものモモらしいモモが好きだ。
今日のモモはなんだか遠く感じてしまう。
私の前をいつもより速足でスタスタ歩く彼を見ていると、なんだか壁を感じる、そりゃあもともと私とは住む世界がもう違うんだ。
いつもはもっと私のことを見てくれて、いつも無邪気に笑ってくれて、そんなモモは私の知っている春原百瀬で、サッカーを楽しそうにキラキラして友達に囲まれていた彼そのもので、そんな彼を見れるのは私だけだって思ってたのに今日は一度も、モモの心から笑った顔が見れていない。
それが寂しかった……。
「名無しさん、そろそろお腹すいた?」
「あ、うん、すいたかな?」
「じゃあ行こうか」
いつもはご飯の話になると楽しそうなのに今日の彼はあっけなく背を向けて歩いて行ってしまった。
連れていかれたのはすっごく高そうなドレスが並ぶ店。
私が見たこともないようにキラキラしてて額も桁が信じられない。
こんなとこ入ったことないのに、モモは慣れたように中に入っていく。
お腹すいたっていってたのに何で?と思っていたが、モモが従業員に何か頼んでいた。
「え、モモ?ちょっとこれどういう」
「それでは名無しさん様、こちらへどうぞ」
「え? ちょっ……」