*i7*
□*Precious time with loved ones*
1ページ/3ページ
「ただいま!」
そういって家に帰っても私たちの部屋は相変わらずの無言だった……。
彼と付き合うことを決めたのはまだ彼がアイドルじゃない一般人だった頃。
そのころは彼のことを応援したいと思ってたし、彼の側にいれるならなんだっていい、ずっと彼を支えていきたいし、ずっと一緒に居たい。
そう思ってた。
だけどトップアイドルになった彼との生活はそんな私の気持ちを蝕むのが早かった。
お休みの日はなかなか被らないし、被っても昔みたいにあちこちで駆けられるわけじゃない。
普段はなかなか家に帰ってこないから、せっかく一緒に住もうといってくれた部屋もほとんど一人で、彼の私物も少なくて。
もう一緒にご飯を食べたのも、笑いあったのも、身体を重ねたのもいつだろう。
まともに顔なんてここ半年くらい見ていない気がする……。
「もうこんなの本当に付き合ってるのかな、百……」
テレビをつければ愛おしい彼はテレビの中で楽しそうに笑っていて、なんだか今はそんな彼に苛立ちを感じた。
『俺、絶対名無しさんのことずっと幸せにするから!だから!俺の彼女になってくださいっ!!!』
あぁやっていってくれた百はもういない。
あんなに幸せだった、色々なところに出かけて、一緒にずっとくだらないことで笑いあって、美味しいものを一緒に食べて、何度も愛し合って……
今の百は私だけのものじゃない、みんなのRe:valeの百だ。
私とこんなに会えなくて、一緒にいれていないのに、彼はこんなに笑っている。
きっと、彼にとって私はもういらないのかもしれない。
最近は特にラビチャも返ってこない……
カレンダーにふと目を向ければ、私がつけた赤い丸がなんだか切なく見えた。
もう無理だ、別れよう。
明日から荷物をまとめて、早いうちに出ていこう。
泊まるところなんて友達の家にいけばいいし、貯金だってある。
「私は、百のお嫁さんになるのが夢だったのにな」
百の隣で純白のウェディングドレスを着てずっと一緒に添い遂げる。
私のささやかな夢だったけど、もう私には耐えられそうにない。
「百が私が出て行って気付くのはいつになるのかな……」
その時に少しでも寂しいって思ってくれるのかな……。
そう思うと悲しくて耐えられなくて、私はテレビの電源を切って部屋に籠った。
夜通し泣きはらした目は朝、腫れを抑えるのが大変だった。
昨日も彼は帰ってこなかったみたいで、部屋は相変わらずシンとしていた。
私はいつも通り仕事の準備をして、部屋を後にした。
カレンダーに書かれた赤い丸をあえて見ないようにして……
今日は皮肉にもいつもより早く仕事が終わった。
早く荷物をまとめて出ていくようにとの神様からのお告げかもしれない。
普通よりかなりセキュリティの厳しい部屋にいつも通り入って、私はマンションの扉を開けた。
そこは暗くなかった。
自分が帰ってきて明るくなった部屋を見たのはそれこそ一年くらい前かもと思ってしまうような光景に私は玄関に立ち尽くしてしまった。
玄関にある彼の靴、中から聞こえてくる鼻歌。