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□*さよならなんて言葉じゃなくて…*
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「はい、わかりました。……もう少しだけ考えさせてください」

そういって私は電話を切って、布団に突っ伏した。

ふと一度消してしまった画面をもう一度つければそこには私が今一番声を聴きたくなくて、だけど会いたくてたまらない彼からの着信通知だった。

Re:valeの百、今でも信じられないが私の彼氏。

モデルとしてデビューして知り合いからの紹介で友達になったが、二年前に彼から思わぬ告白をされ、私たちは友達から恋人になった。


百はいつも無邪気で明るくて、一緒にいるだけでハッピーになれる人で、あまり二人で大々的に出かけることはできなかったが、ただ家で一緒に映画を見たり、慣れない手つきの百に料理を教えたり、そんな日々が幸せだった。


そんな幸せな日々に影が曇ったのはつい最近のことだ。


私にニューヨークのとあるおおきな雑誌との専属契約の話が来た。

ずっと海外で働くのが夢だった。


前までなら二つ返事で行きます!と返事をしていたはずなのに、私はその返事を保留にしていた。

ニューヨークに行けば、百と一緒にいられなくなってしまうからだ。


今でもお互い忙しくて会うことが難しいのに、ニューヨークなんて行けば全然会えなくなる、時差だってあるのだから電話だって容易に出来るはずもない。


私一人で決めていいことではない。

相談しなきゃいけないのは分かってる。

だけど百に言えば返ってくる答えは分かってる、だからどうしてもどうしても言えなかった。

向こうからは三日以内に返事を、と言われてしまった。


このチャンスを逃せば次はいつになるか分からない、私がモデルで輝ける時間だって無限なわけじゃない。

部屋に飾られた百との写真。いつもなら見て思い出し笑いでニヤニヤしてしまうのに、今は見ていて辛いだけだった。


携帯から着信音が流れる。百からだ。

きっと折り返し電話をしない私を心配したのだろう。

しばらくなり続けるコール音に私は悩んでしまう。ここで言わなければいけない気がした。
百と一緒にいたい、百が好きだ。

だけどここでニューヨーク行きを諦めても、百の情報網のことだ、きっといつかばれてしまう。
そしたら百は自分を責めるかもしれない、自分のせいだって。


私は決意して、電話に出た。
向こうからは私の大好きな声が流れた。


『名無しさん!良かった、さっきも話し中で連絡なかったから何かあったのかなって!もしかして寝てた!?』

「ううん、まだ起きてたよ。ちょっと携帯に気付かなくて、ごめんね?」

『俺こそごめんねっ!ほらこの間名無しさんが行きたいっていってた映画のチケットが手に入ったから今度のお休みに一緒にどうかなっておもって!』


百はこうやって私が行きたいっていったところ、したいっていったところも全部覚えてくれている。

そんな百が大好きだ。


「百、ごめん行けない」

大好きだから……

『あ、忙しかった?最近名無しさん仕事ハードだもんね、疲れてるなら仕方ない!じゃあ今度のお休みはモモちゃんが名無しさんの家で』

「ごめん、もう会えないの」

『え……』


胸が苦しい、キリキリ痛む、今すぐ冗談だよって言いたい、だけど……


「百と別れたい」

『……本気で言ってる?』
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