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□* Are you happy now? *
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「おうよろしく!一織は一緒にケーキ用シロップも作っててくれ」
「分かりました」
「本当、君たち家事スキルならぬ女子力高いよね。尊敬する」
「あははっ、帰る前にあのたまった洗濯物干しちゃいますからね」
三月が隣につきっきりで見てくれてるけど、正直難しい。
そもそもこんな泡だて器なんて触ったことあんまりないし、今思うと名無しさんはいつも毎年バレンタインには手作りのチョコ、誕生日には手作りのケーキって作ってくれてたけど、こんなに大変なのかって実感する。
俺愛されてるなぁ……
やっとスポンジがオーブンに入って、三月の指示のもとイチゴを切っていれば、一織が少し聞きづらそうに声をかけてきた。
「どんな人なんですか?彼女さん」
「びっくりしたっ!一織もそういうこと興味あるんだねっ!てっきり全く興味なんてないのかとっ!!!」
「失礼な!ちょっと気になっただけですよっ!」
「俺も!俺も気になります百さんっ!どんな人なんですか?」
うぅ、そう聞かれるとちょっと恥ずかしい。
こんなこと聞かれたことないし、でも二人には手伝ってもらってるし……
「とっても守ってあげたくなるような子かな。いっつも何かあっても一人で泣いて一人でなんとかしょうとする頑張り屋さん。モデルの仕事をしてるんだけどさ、この間仕事で失敗しちゃったらしくて電話越しにすごく落ち込んでたんだよね」
一週間前かな。
久しぶりに電話してみたら少し震えた名無しさんの声。
モデルの世界だってやっぱり芸能界。
競争社会だし、きっとたくさんきついこともあるんだと思う。
名無しさんは俺にそんなこと話さないけど泣いてたら一発でわかるよ。
最後まで泣いてないって言い張られちゃったけど、そんな名無しさんの声を聴いて、誕生日が近いことを思い出した俺はどうしても、去年と違う、俺だけにしかできないことをしてみたかったんだ。
「だから、へたくそかもしれないけど百ちゃんのスペシャルケーキを食べて名無しさんのことを少しでも笑顔にしてあげたいんだよね。いつも離れてて会えない分、この日だけはすごくハッピーな気持ちにしてあげたいんだ」
「百さん、本当にその人のことが大好きなんですね……よしっ!とびっきりのケーキを作って彼女を喜ばせてあげましょうっ!なっ、一織」
「そうですね、兄さん。そろそろスポンジが焼きあがりますので生クリームの準備をしましょう。冷めるまで少しかかるのでその間にメッセージプレートの制作をしましょう」
「一織も本当にありがとうっ!ちゃんと今度お礼するからねっ」
そこから二時間、頑張って頑張ってやっと作ったケーキは我ながらしっかりできていて、気づけば時計の針は22時を指していた。
「できたー!!!!もうすごいよっ三月も一織も!本当にありがとうっ!」
「思ってたよりうまくできてよかったです。それより名無しさんさんはいつ来るんですか?」
「あ、えっと、もうすぐ連絡来るとは思うんだけど」
「じゃあ洗い物と洗濯、ちゃっちゃとやってお暇するとしますか!」
「二人ともせっかくだから名無しさんに会っていけばいいのに!」
「そんな野暮な真似しませんよ、せっかくなんですから二人でゆっくり過ごしてください」
「そういうことですっ!」
作業に取り掛かる和泉兄弟に俺は心から今度お礼をしなきゃと誓う。
出来上がったケーキをもう一度見ればわくわくしてきた。
名無しさん、どんな顔するかな、喜んでくれるかな。
会えたらまず思いっきり抱きしめて、キスしておめでとうっていって……それで……
もう一つ、和泉兄弟には言わなかったサプライズが胸ポケットにあることを確認して俺は携帯を確認する。
そこには終わったと、すぐに向かうねの文字。
少しして和泉兄弟も帰り、俺は一人せわしなく部屋の中をぐるぐるする。