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□*最高の一日を君に……*
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「じゃあ俺は外で待ってるから!」
従業員さんに連れていかれて、私はこれでもかというほどドレスを着せられた。
どうですか?こちらは?なんて言われるが私はもう頷くことしかできない。
何が起きているのか分からないまま、気づけばピンクゴールドのドレスで決まり、髪もアップにしてくれた。
今まで来ていた服は紙袋に入れられ、慣れないヒールに気を付けながらお店の外に出れば、すっごくスタイリッシュなスーツに着替えたモモがいた。
一瞬言葉が出なかった。
そこに私の知っている春原百瀬はいなくて、いたのはRe:valeの百だった。
「ほら、行こうか」
さらっと手を取られ、モモに連れていかれた先はそれはまたとても高級そうなレストラン。
サングラスを外すモモに大丈夫なのか聞けば今日は貸し切りだといわれてしまった。
モモと顔を見てご飯を食べるのはいつぶりだろう。
嬉しい反面やっぱり目の前のモモが私の知らない人に見えて少し寂しかった。
慣れた手付きでスタッフさんに注文するモモ。
夜景もすごく綺麗で、自分が場違いなように感じる。運ばれてくる料理はとても美味しくて、だけどモモは終始心ここにあらずで、それだけが寂しかった。
「えっと、デザートなんだろうね!!すごいねここ!!なんかモモが本当にアイドルなんだなって改めて実感したよ!」
「本当!? それならよかった……じゃなくてデザートなんだけどさ……」
少し自信なさげに頬を掻く彼に、私は首を傾げた。
そうこうしてるうちに運ばれてきたのは、少し歪な形をしたアップルパイだった。
「と、特徴的な形のアップルパイだね!!」
「え、うん、そうだね!!」
夜景に目をやるモモはそれに手をつけようとしない。
食べてみると味はふつうだった、こんなレストランであんな料理が出るお店にしては至って普通のアップルパイ。
「美味しい?」
「あ、うん!美味しい」
「本当!? いや、えっと、それならよかった」
いつものモモっぽかったのに、彼はまた顔を逸らしてしまった。
私は覚悟を決めて聞いてしまうことにした。
「ねぇ、モモ」
「なに?」
「彼女、できたんでしょ!?」
「……え?」
「だって今日のモモ変だし、ずっと携帯見てるし、私と二人で会ってたらモモ、彼女さんに怒られちゃうよね、あ、誰かとかは聞いちゃダメなんだよねこういうの!!今日でこうして会うのも最後だからこうやって色々してくれたんでしょ!ありがとうね!!」
「……」
「私もそろそろモモとは昔みたいに会えないのかなって思ってたし、ちょうどよいのかもね……会えなくなっても、Re:valeのファンとしてずっと応援していくから……」
「なんだよそれ……」
ずっと伏せてたモモが絞り出すように言う。
え?怒ってる……?
「モモ?」
「名無しさんは俺と会えなくなってもいいの? 今日だって別に楽しみでもなんでもなかったわけ? 何でそんなこというんだよ!」
「なっ……だってモモ今日なんか変だよ!!」
「え?」
「全然笑わないし、全然話さないし、仕切りに携帯見てるし、服だっていつもよりなんかこう八乙女楽みたいな格好してるし、こんなとこに連れてきて、モモらしくないっ」
「お、俺だってたまにはこういうときだってあるよ!」
「うそっ!だってモモはブラックコーヒーなんて飲まないし、水族館なんかよりテーマパークとかのが好きだし、そういうかたっ苦しい服は好きじゃないって前にいってたし、こんなレストランで夜景を見ながら大人しくしてるモモなんて、モモじゃないよ!私の好きな春原百瀬じゃない!!!」
「え……今……」
あ、私……今……
なんだか二人とも黙ってしまい沈黙が流れてしまう。
気まずい、すごく気まずい。
モモもずっとだまってるし、結局彼女がいるのか分からないし、これで最後なんてなったらどうしょうと思うとなんだか泣きそうになってきた。
「あーもう!!!!」
いきなり目の前で大声を出して髪をわしゃわしゃするモモに私はびっくりした。
目の前にはせっかくセットした髪をぐしゃぐしゃにして、しっかり閉められたネクタイを取ってしまうモモ。
「やっぱこんなの俺らしくないっ!!!」
「え、モモ?」
こっちを見るモモは私の知っているモモだった。
少しだけ顔が赤くて、なんだか私まで赤くなった。
「名無しさん!!」
「はいっ!!」