*i7*
□*Fascinated by the song*
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こっちを見上げてくる彼女がぽかんとしているのは眼鏡越しでも見て取れた。
「えっと、今日はもう時間も遅いので……」
「すっごく綺麗な声だよね、どっかでデビューとか決まってるの?」
「……まだです、でも歌うことが好きなので諦めません」
ギターを強く握りしめる彼女からは強い意志のようなものを感じて俺は彼女の片づけを
手伝った。
「え、ちょっ、大丈夫ですから!!」
「この後空いてるかな??」
「へ?」
「あ、安心して!ナンパじゃないから!!って、これじゃあはたから見たらナンパだよね……えっと、君の歌のファンとしてどうしても連れていきたいところがあるんだ」
ちょっと強引に誘ってみる。
明らかに警戒している彼女に俺はどうしたものかと頭を悩ませた。
「怪しいところとかじゃないからさ、俺のこと、ちょっとだけ信じてくれない?」
そのあとも思い切り押して押して押し切って俺は車に彼女を乗せた。
乗ることにかなりの抵抗があるのか、なかなか乗ってくれなかったが、頼み込めばおずおずと乗ってくれた。さすがに助手席に乗せるわけにはいけないので後ろに乗ってもらう。
我ながらここまでくると怪しいプロデューサーとかやばい人としか絶対思われてない……。
ずっと怯えたように肩を震わせているのが心底申し訳なく感じたがそれよりもまずは彼に合わせたかった。
マンションにつくと、彼女は余計に固まってしまった。
まぁ知らない男にこんなとこ連れてこられたらそりゃあこうなるよね……モモちゃん得意のギャグを車で連発したけど一回も笑ってくれなかったし……。
マンションの部屋番号を入れて少し待ってれば愛おしいダーリンの声が聞こえてきた。
「ユキがまだ起きててよかったよ!とりあえず連れてくからよろしく!!」
その声をきいて彼女はあれ?と後ろで首をかしげている。
「あの……今ユキって……」
むむむ、ユキの声には気付くのに俺の声には反応なし。
やっぱりまだまだかなわないなぁなんて思いながら、俺は万が一のため自分の被っていた帽子を彼女にかぶせた。
「ごめんね、万が一マスコミに見られると面倒だからさ」
「え、まっ、まさかあなた……」
大声を出しそうになる彼女の口に人差し指を当てて、俺は片手で少しだけサングラスをずらして見せた。
「ほら、ユキが待ってるんだ早くいこう」
さらっと彼女の腕をつかめば、思ってたよりも細くてちょっとドキッとした。
そのまま何も言えず固まっている彼女をエレベーターに連れ込んで、いつも通りダーリンの部屋に入る。
そこにはすっかり部屋着に着替えたユキさんがいた。
ここまでくればもうサングラスは必要ない、サングラスを取って「初めましてRe:valeのモモちゃんです!」なんて言えば彼女は警察がかけつけてきそうな大声をあげたもんだから、俺もユキも笑いをこらえられなかった。
「本当にモモにきづかなかったの?」
「はい、だってまさかあのRe:valeの百さんなんて思いもしなくて……いきなりついてきてとかいわれて途中から怪しい人なんじゃないかとおもって……」
さすがに外で言うと誰に聞かれたか分かったもんじゃないしね!!
でもやっぱり怪しい人って思われてたんだ、ちょっとショック……
「まぁそんな声のかけ方されたらそりゃあ怪しい人に見えちゃうよね……」
「し、仕方ないじゃん!どうしてもユキにあの歌聞かせたかったんだよ!!」
「僕も聞いてみたかったから楽しみだけどね」