00作品集

□自動販売機
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お金。


女子高生はこんな物を見つけていた

見通しの悪い道路に電信柱が並んでいる
人通りは全くなく、暗くじめじめしていた。
その周りには、ぽつんとオレンジ色の反射鏡があり、赤いボックスが映っていた

家の横にある植物の陰に隠れて赤いのかどうかすら
分からないが、確かにある

止まれの看板もまた それへの侵入口を妨げているように
見えた



「こんな所に自動販売機が」
たまたま近くを通り掛かった女子高生が、カチャンと前輪を
蹴り、立ち止まった
買い物かごにはネギやらジャガイモが入っている
横に立ち上がった自転車は、母のオレンジのママチャリらしい


ツンと高く整った鼻筋に細めで苛烈な雰囲気を催す眉
薄い桜色の唇をした セミロング背は160cmくらい

女子高生は、蔦と思われる植物を右手で払い、それに
近寄った。

「チャリン」
すぐ側にあるママチャリの籠に入れられていた
鈴が音を鳴らす。

小さくてか細い音だ
鳴ったのかどうかすら分からない
これは女子高生が中学生の頃好きな人に貰った物だ。
本命は鈴を首輪に付けた招き猫。しかし猫が鈴にしがみつく
ような作り方の為、音は甲高くなる。
付き合いも告白も出来なかったが、
この鈴だけは捨てる気になれないらしい

捨てられない想い出だ

女子高生は 周りを一瞥し、地面に目を游がせた
歩道となる道のあちこちも、それがある周辺にもびっしり
雑草が生えている。

煙草の吸い殻まで集中している

誰か、この近くを狙って棄てたのか
女子高生には何故この場所にゴミを棄てるかすんなり理解できた


変なのだ。

こんな場所に自動販売機があるのかが
普通もっと分かりやすい所に置くだろう
ならこの家が建つ前に出来たのか?それもない
まるでつい最近出来たかのような佇まい、そして異質な雰囲気

女子高生は、その自動販売機に近寄り、ジュースを購入しようと
財布を鞄から出した

財布の中身は乏しかった。
前に購入したジュースの残りくらいしかない
それどころか十円すらなく、ジュースを買うには致命的
だ。百円の安上がりなものはそうそうない

バイトは禁止、化粧や彼氏を作る事も許されていない

高校になれば何でもできるという幼稚な考えが
女子高生にはあったのらしいのだが、それも生徒指導と
風紀委員によって粉砕した。


そして絶賛反抗期中の母からはおつかいという面倒な
仕事を任され、当然の如く寄り道した。

小さい頃よく行っていた公園、神社、駄菓子屋
休日でもおしゃれが出来るように宝石を散りばめたネイル
勿論、百円均一のおもちゃだ

散乱したネイル、スマホ皺を作ったティッシュを掻き分け、
どこかに十円はないかと探すが何処にもない。
お釣りは面倒だがまだましな二百円を探したがない

今日の財布合計金額、百円。



その癖に鞄は高価な有名人がデザインした、
高価な白と青のオーシャンカラーである

仕方ないか、と若干諦め気味に自動販売機を見た
これが安い自動販売機なら問題ないだろう

選ぶのには時間をかけたい。この女子高生はいつもそう
お金を幾らか出し、ジュースを選んでから金を入れる
それがこの女子高生の癖だ

百円でも買えるものがあれば。

ジュースを選びにかかる。
こんな異質な自動販売機だ。
安い値段でお茶が買えたりするのかもしれない、と
僅かな期待だけが過る。

曇りがかったプラスチックは割れ、泥で汚れている。
早速 飲み物を選びに顔を上げた














え?
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