00作品集
□まるで悪魔のような
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お前は駄目だ。駄目な奴だ。
脳内から何度もリピートされる父の声。
その度に泥酔し一升瓶を片手に持って投げつける情景が目に浮かぶ。
父は家に帰ってくるなり酒を飲み、暴れまくった。僕の弟に豪快な平手打ちを飛ばし、弟を匿った僕も殴られた。
鼓膜を破られたような衝撃。
赤く内出血した頬、罵声。
お前は駄目な子だ、何回言ったら分かるんだ。
父はいつも僕達の悪口を言い散々罵った後、女と共に夜の闇へと消えていく。二度と帰ってくるなと思った。
親としての威厳もなく、母を助けもせず、酒を飲み金を削る、クズでどうしようもない親父。
いっそ、消えてしまえばいいのにと何度も思った。
しかしそんな願いなど儚いもので、僕も弟の方も劣悪な家庭環境に慣れてしまった。父の言う通りにしないと殴られる、だから父の機嫌を損ねないように注意すればいい。僕と弟は協力して父の機嫌を取ろうとした。だが
「何をやってるんだ。小賢しい」
お手伝いしてるだけなのに、何でこんな事言われなきゃいけないのと弟が言った。協力する事は無駄なのかと一つ学んだ。
それきり僕も弟も母も父にいつしか反抗しなくなっていく。
酷い暴力に耐えれば終わりが来ることを知ったのだ。
そのお陰で膝は擦りきれ、数十個の打撲傷が出来、時には出血していることもあった。あまりの惨状に学校は虐待を疑ったが僕はそれを制止した。
もし逆らえば今度こそ命はないと思ったのだ。だが。
「ならこの暴力の跡は何なんだ。喧嘩か」
反射的に頷く。
この学校一番のDQN達と喧嘩したんだと後先の事は考えずに嘘をついた。
先生はあんな連中には関わるなよと忠告してくれたが、日に日に増える傷跡にウンザリし気付くと突き放されていた。
「なんだそんなに喧嘩が好きなんだな」
僕はまた頷いた。
保健室の包帯を強めに巻いた。
「五木君は本当に喧嘩が好きなのね」
保健室の先生はそう言った。茶髪のセミロングにピンク色の口紅、二重の大きな瞳は見られただけで緊張する。それに加えおよそDカップはある大きな胸に細い足。
こんな美人な保健室の先生、初めて知った。
先生は名簿に僕の名前を記入しこちらを見つめてきた。回転椅子に座っているため、僕が視線を落とすと足が見える。目のやり場に困った。
「は、はい」
いきなりの言葉に間抜けな返事をすると、先生はうーん。と顔をしかめた。
どうしたんですか、と問い掛けそうになった時、先生の胸が目に映る。
動く度に少しチラ見してしまい、視線を落として手を握り締めた。
だが、僕はやり返さなかった。
何もしなければ何もしてこないと気付いたのだ。
僕は臆病者だ。
殴られても何もしない。
待てば終わる。
待てば終わるのだから。