【東京リベンジャーズ】

□過ぎ去りし王国に想いを馳せて
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「ごめんな、怖かっただろ」
「ううん、大丈夫だよ何もされなかったから」

私は男が私を攫う時にできた腕を咄嗟に隠した。イザナに見られたら絶対心配されちゃうから。

「なあ」
「ん?」
「俺の兄ちゃんの話知ってるか?」

佐野真一郎。
イザナは私に過去のことを全て打ち明けてくれた。俺にお兄ちゃんがいたこと。

真一郎が作りたかった『不良の時代』の事をイザナは青臭くて餓鬼っぽい夢だ、と自嘲した。
私はそうは思わなかった。蘭や竜胆くんみたいに兄弟で生きるのが普通?ヤンキーは社会のゴミで終わっていいの。イザナみたいに心に闇を抱えている人たちだって普通の世界で生きていたいはず。普通で、なんて素敵な夢。だろう。

「だが俺がしでかした事は、端からみればそこらの底辺と変わりはない」

淡々と言い放つイザナに私は言葉を飲み込んだ。「大丈夫」とか元気出してとか言えないほど弱ってるように見えたから。

「何かあった?」
「誘われたんだ。俺の下僕にならないかと
誰かの下につくなんて、考えたくもないから断ったけど」

「...」
そう、物好きなチームもいたもんだね
言葉が出なくなる。イザナは続けた。

「俺は気付いた。このまま奪って奪われて良いのかって思ったんだ」
俺のものを奪う奴は悪だ。取り立てて取り立てて奪ってやる。何十年でも見つけたら脅し必ず落とし前をつけさせたい。追いかけ回したい。ところが天竺の仲間らはそうはいかないらしい。名前なんかそうだ。嫌いなやつより好きなやつといたほうがいいと考える。追い詰めてしまったらこちらが悪者になるという良心がある。
俺にはない。
俺に非があったとしても、なくても、社会は常に力のある方の味方だ。俺の気持ちには誰も寄り添ってくれない冷たい世界だ。だから、暴力に憧れたはずだった。やられて何もしないなんて考えたくも無いし、俺たちが望んで闇社会で生きることを選んだので良い選択をしたって思っていた。道だ。
やがては大人の社会に喧嘩を売りに行き犯罪組織のトップを作るという野望があった。俺の後をついてくる奴らも同じように優秀でそれ以外に居場所がないクズどもだった。

だが今回の抗争で不意に理解した。何も持っていない奴らは俺と同じように、家族を奪い、友達や仲間や大切な人を襲い、それに対して何の情も抱かない。被害者から加害者になっていくものを
どうしてずる賢かったり、何十倍も捻くれているやつが上に立って、搾取するんだ。
本当に何も無いから殺して奪うのは正しい選択といえるだろうか。
そんな生き方の人間を目の当たりにして俺は気付いてしまった。この世界には俺よりクズな奴がいっぱいいる。そんな中で自分を通して生きるなんて間違いなんじゃないかって思ったらもう何も思い浮かばない。挫折だ。
「イザナ?
「アイツ自分はクソ野郎だと開き直ったんだ
反吐が出るだろう、生き方が俺と重なって見えるんだよ...」
「最悪だ...」

「重なってなんかそんな」
かける言葉が見当たらない。否定してもダメなんだ。私からは自分の行いを恥じて懺悔しているように見えた。
私にもわかる、イザナのこんな苦虫を潰したような顔を見たのは初めてだった、苦しみと悲しみで今にも泣き出してしまいそうなイザナの織り混ざったとても一言で表す事はできないような顔。


「俺はそいつと同じとこまで落魄れてんだと気付いたよ」
「何で」
私が口外してイザナは初めてハッとした表情をした。

「悪ぃこんなの話しても困るよな」
「待って、何でイザナが苦しまなきゃいけないの?」

それはつながりを拒否するイザナにとってつゆほど入らない突拍子もない疑問で。だけど真っ直ぐな瞳がイザナを射抜いている。

「何でって」

「そう、同じに見えたんだね、多分イザナは今までの生き方を悔やんでいるんだよ
でも違う、選択を間違えない人なんている?
イザナとあの人は全然違う。私、自分と比べて共通点があるからって似た者同士だと思ってほしくない。」
「...」

「私は良いと思うよ、思いっきり凹んでも、心変わりしても、挫折しても
自分の命より大切に思うものが出来たんだもの。」
一緒に戦ってくれた仲間を失うことが怖かったんだよね。どう生きたら良いかわからなくなったんだよね。

「過去に得たのが無くなってしまう、戦う事を辞めた俺に残ったものは何もないんだ」

虚無感がずしんと胸に積もる。このまま普通の社会に戻れるにはこの手は汚れすぎた。少年院で教育してくれた人に私たち何も恩返しできていない。

「何もないなんて言わないで」
大事なのは今なんだよ。私はイザナの手を握った。傷だらけで強い拳だった。自分の身を守るために努力を重ねたんだろう。もういらないからさ。



「周りを見て、まだ失ってないものが沢山ある。少しずつ、少しずつ歩いていこうよ、喜ぼうよ私たち「普通の人になれたんだからさ」

どんなに苦しい道のりか知っている。
イザナがホッと息を吐くのが分かった。

「もう疲れた、早く帰ろう」
「うん」



無くしても思い出は残るよ。その思い出、ほんとに大事なものなの?
今幸せ?
過去に執着するんじゃないの、大事なのは今なの。確かに無くした物はすごく大きく見えるかもしれないけどそればかり見て進む道が見えないくらいなら捨てた方がいい





安心し基地を後にして逃げようとした所に声が響いた。見ると銃弾を構えた男が一人立っている。男は額に青筋を引かせ歯をぎりぎりと噛み締めながらこちらへ歩いてきていた。

が、その足の引きずり具合から負傷しているのがわかる。
逃げた方がいいかとイザナを見ると彼はじっと男を見つめていた。


「お前らのせいで台無しだ」
「お前の仲間は捕らえた」


「卑怯極まりない」
「卑怯?それが貴様の選んだ道だろ?
何で奪う奴らが何も奪われないと思った?」
イザナが睨み付ける。

間違ってはいないだろう。
俺は善人じゃない。
数年前、俺に殴りかかってきた男たち一人一人を呼び再起不能になるまで殴り続けてきた時もそうだった。弱い者は強い者に淘汰される。頼れる友達も、強い仲間もいない俺が晒されたのは単純な力による暴力。

だから捻じ伏せた。
兄貴に教わった体の動かし方は人と闘うほど威力を増していく。
一人で解決するしかない。

人目につかない悪事が罷り通っている。自分より卑怯な人間に会うことだってあるのにいつの間にか見ないようにしていたみたいだ。

「仲間?
そんなものはねぇ!好きに使えよ」


俺の心臓が跳ねていた。
自分が決めた道だと分かってはいたのに
大差ないのに、変わらないのに

この胸の苦しみは噴き出るような怒りは自分への正当化なのだろうか。


公に出ない闇取引。
死体が上がったとて突き止める術は何も無い。
作戦は失敗だった。


「お前ら邪魔物潰しにここに来たのか?」
譲れないものがある。

「数でものを見る奴が大嫌いなんだよッ!」

今さっきできた。譲れないモン。俺に価値はない。今出来ることは名前を守ることだけだ。


俺は一人で生きてきた、お前らは日の元で生きられない辛さを知っているか?
なら何で奪った。

「はぁ、はぁ、」
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