君の世界は僕だけでいい*魔法*

□はじめまして
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がだんごとん

揺れるコンパートメントの中には、少女と少年が1人ずつ。
行先はホグワーツ魔法魔術学校。些か大きすぎるように感じる黒いローブに身を包み、1人はこれからの生活に期待を、1人は不安を。
赤毛の少女が話しかけ、それに黒い少年がおずおずと相槌をうつ。会話が続くことはないが、不思議と嫌な空気ではない。


こんこん

そんなコンパートメントの扉が、控えめにノックされた。
何だろうと黒い少年に目配せをすれば、訝しげに首を傾げられる。


「こんにちは。」

扉を開けた先にいたのは、不思議な容姿をした少女。前髪も後ろ髪も乱雑に切られ、その髪をカラフルなヘアピンが5つほど、申し訳程度に飾っている。何処そこガーゼや絆創膏だらけで見るのも痛々しいが、綺麗な顔に青い瞳はよく映える。

「こんにちは。」
「ここ、空いていたら同席させて貰ってもいいかな。他のコンパートメントはいっぱいで。」
「ええ、もちろんよ!セブルス、大丈夫よね?」

何故魔法で治さないのだろう、と考えていた黒い少年は、返事が一拍遅れたが、曖昧に頷く。煩いやつじゃないといいが−−面倒くさそうな少年に対して、少女は嬉しそうに席へ座るよう促す。白い少女は荷物をなおして、促されるままに席へ座った。

「はじめまして、私はリリー。リリー・エバンズよ。向かいの席の彼はセブルス・スネイプ。よろしくね。」

勝手に自己紹介をされたことに不満が顔に現れたが、自己紹介をするつもりがなかったことがばれていたのだろう、仕方なく視線を教科書に戻した。

「わたしはfirst name。よろしく。」
赤毛の少女が差し出した右手をじっと見つめて、意図に気づいたのか、そろりと包帯だらけの左手で握手する。
そこで、赤い少女と黒い少年は違和感に気がつく。family nameを言っていない。何か特別な事情があるのだろうか。赤い少女は、思わず声に出した。

「...貴女、ファミリーネームは?いえ、言いたくないのなら無理して言うことはないけれど。」
「ファミリーネーム?」
「ほら、生まれた時に両親から授かるでしょう?私ならエバンズよ」

「ああ、そういうこと。それなら無いよ。わたし孤児だから。」

ファミリーネームに疑問符を付けた時点で不安が過ぎったが、まさか。いくら孤児でも、預けられたときに既にファミリーネームは授かるものではないのか。
そんな、柄にもなく黒い少年まで戸惑わせた白い少女は、荷物の中からいそいそと教科書を取り出した。

「そんなことよりさ、ホグワーツは4つ寮があるんでしょ?楽しみ。」
そんなこと、で一括したことにもまた動揺したが、そんなことを自分たちが悩んでも仕方ないと判断したのか、白い少女の話題に乗ることにした。

「グリフィンドールと、レイブンクローと、ハッフルパフと、スリザリンだったわよね。」
「エバンズはグリフィンドールかハッフルパフだと思う。」
「ええ、どうして?」
「だって、綺麗な色の髪の毛だから。赤色か黄色が1番似合う。」
「面白い基準ね、first nameは。」

照れくさそうに、嬉しそうに笑う。
黒い少年は、そんな赤い少女を見て静かに微笑んだ。


「スネイプは、レイブンクローかな。賢そう。」

そして、ド肝を抜かれる。散々嫌味でスリザリンだと言われたことはあったが、レイブンクローだとは。思わず目線を上げて、白い少女を凝視した。

「first name、あなたって...最高よ!」
「え、どうして?」

ぱちくりと瞼をしばたたかせる少女に、赤毛の少女が抱きついた。黒い少年は、信じられないものを見るかのような視線を寄越すし、なにか自分は素晴らしいことを言ったのかと困惑しきりだ。

「こんな素敵な友人を持てて、私って幸せ者だわ。」
「...友人?」
「ええ。そうよ。」

嫌だったかしら、不安げに白い少女を見れば、きらきらと瞳が輝いている。どうやら杞憂だった様子。

「友人って、一緒にお茶会をしたり、お誕生日を祝いあったりする、あの?」
本で読んだ!相変わらず瞳を輝かせながら、赤くなった頬を冷やすように手のひらで挟む。その様子が本当に嬉しそうで、少し悲しかった。けれど、そんな彼女のはじめての友人になれたことは、とても喜ばしい。

「ええ、友人よ!私たち!もちろんセブルスも!リリーでいいわ、first name!」
「...セブルスでいい。」

先程までの無表情が嘘かのように、満面の笑みを浮かべて、リリー、セブルス、と、噛み締めるように呼んだのであった。




「first name!!」

ファーストネームだけ呼ばれた少女に、あたりはざわつく。事情を知っているだけに、2人は心中不安だったが、さらにその変わった容姿にまたざわつく。自分の組み分けのときよりヒヤヒヤしながら、白い少女の組み分けを見守った。
残念なことに、赤い少女と黒い少年は寮が分かれてしまった。世間知らずで何処か抜けていて、友人という言葉にとても喜んだ、小さな少女が、せめて2人のうちどちらかに組み分けされるように、赤い少女と黒い少年は無意識に祈る。

「こんにちは。」
「やあ、こんにちは。さあさ椅子にお掛け。」
「はあい。」

「ほう、勇猛さもあり、忍耐力もあり、学びに対する意欲もある。そしてそこには狡猾さも見え隠れ。なるほどなるほど、これは久々に難しいお嬢さんだ。」
「リリーかセブルスと一緒がいいな」
「おや、真反対な彼女彼らと?それはどうして?」
「友達だから。」
「なるほど。彼女たちはいい友人を持ったものだ。しかし君に、グリフィンドールは明るすぎるかな?無理なきように、真の友を選びなさい」

「スリザリンッッ!!!!!!!」

スリザリンのテーブルから、盛大な拍手が巻き起こる。白い少女は、ふわふわと浮かぶ帽子にお礼を告げて、真っ直ぐに黒い少年の元へと歩く。もちろん、ちらりと目線を交わした赤い少女に手を振るのも忘れずに。

「...お前がスリザリンだとは、思わなかった」
「そう?わたしがお願いしたの。どっちかと一緒にしてって。」
「そうか。」

話せば話すほど、スリザリンは似合わない。あとの組み分けは、ひたすらに興味がなく、隠して持ってきた教科書をこっそり読む。隣の少年に視線で咎められながら。
この、悲しいくらいに無知な少女が、この組み分けを後悔することのないよう、祈るしかないのだった。
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