君の世界は僕だけでいい*魔法*

□ちょっとしたこと。
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食事も片付けられて、ネクタイの色もスリザリンカラーにしてもらって、寮へと案内される。水の中にあるらしい寮は、じめじめしていて薄暗い。その中で教科書を読むのは流石に目が悪くなるから、諦めて教科書を閉じると、隣のセブルスに微妙そうな顔をされた。なんで?

前を歩く先輩らしき人の話は難しいので聞いてるふりをしながら、天井から降りてきたクモを指に乗せる。セブルスに見せたら不評だったので、仕方なく床に下ろしてあげた。

「寮は別々なんだね。」
「当たり前だ。」
「授業一緒に行こうね。」
「...ああ。」

ばいばいと手を振って、それぞれの寮へと進む。
あてがわれた部屋へと入れば、早速といったようにルームメイトのおしゃべりが始まった。純血?だとかマグル?だとか、半分以上が聞いたことのない単語ばかりで、聞いているだけで疲れる声。
たまに話しかけられるけれど、どの質問もわたしでもわかるくらいに不躾な質問ばかりだった。
ものすごーーーく!不愉快だったので、話しかけられないように部屋の隅で教科書を開く。
リリーとセブルスだったら、もっと意義があって、楽しいおしゃべりができるのに。

つまんないなぁ。はやく2人に会いたい。



「あ、セブルス」

おはよう、と声をかけ、黒い少年に駆け寄る。

「...お前、」
「?」
「ローブの前をちゃんと閉めろ。ソックスも曲げずにちゃんと履け。スカートを折りすぎだ。あと寝癖はちゃんと直せ。」
「わー。」

呆れたようにまくし立てながら、ローブのボタンを穴に通す。白い少女は、通しやすいようにと両腕をTの字にあげて、されるがままになっていた。
どこからどうみてもしっかり者の母親とだらしない子の図である。

「ねぇ、セブルスとリリーとおんなじ部屋にできないの?」

折り曲げたソックスを上げ、目線だけで尋ねる。
その質問に、黒い少年は柄にもなく少し不安になった。
もしかしてルームメイトと上手くいっていないのか。いやしかし、このコミュニケーション馬鹿に限ってそんなことは...

黒い少年は知らない。白い彼女は、興味がないものにはとことん興味を示さないことを。その証拠に、先程からちらちらと冷やかすような視線も、毛ほども気にしていない様子である。


「女子と男子が同じ部屋だったら色々と問題だろう。」
「色々?着替えはベッドでするじゃん」
「...とにかく色々だ。それに......リリーはグリフィンドールだ。同じ寮じゃない。」
「そっか。でもリリーは違う寮でも友達だって言ってた。」
「それは昨日も聞いた。」

大切な、大切な赤い少女と離れてしまって、冷え固まっていた心が溶ける音がする。
馬鹿で世間知らずだが、この少女と話すのは嫌いじゃない。
それに、自分とリリー以外に見向きもしない少女が向ける表情は、とても輝いて見えた。リリーが百合の花だとするならば、first nameはフリージアだろうか。

と、ここまで考えて、自分がひどく恥ずかしいことを考えているように思えて、黒い少年はかぶりをぶんぶんとふる。
耳まで真っ赤にした少年を不思議そうに見ながら、少年の手を引いて談話室を後にした。





大広間の入口まで歩くと、正面に見慣れた少女を見かけた。
白い少女が隣の少年を盗み見ると、表情には出ていないが、雰囲気が幾分か和らいだような気がした。いいことだ。
など考えつつ、昨日の大広間ぶりの赤い少女との対面に、白い彼女もとても嬉しそうだ。

「リリー!」
「first name!セブ!」

白い少女が一目散に駆け出して、赤い少女に抱きつく。その後ろから、これまた嬉しそうな少年が遠慮がちについてきた。

「どうしたの、first name?昨日は全然素っ気なかったじゃない。」
「だって、セブルスとも違う部屋なんだもん。つまんないよ。」
「おいfirst name、いい加減リリーから離れろ。」
「やだ。」
「もう!ずるいわ、2人ともそんなに仲良くなっちゃって!」

白い少女のローブの裾を、弱くではあるが引っ張る。それに抵抗するように、赤い少女に更に強く抱きつく。
グリフィンドール生とスリザリン生が仲睦まじく会話するその姿はなかなかに異様であったが、それが気にならないほどに和やかであった。

「紹介するわ。友人のセブルスとfirst nameよ。こっちはセシル。同じ部屋の友人なの。」
「セシル・シニングよ。よろしくね。」
「うん。」

プラチナブロンドの髪に柔らかい表情。絶世の美少女と評するに相応しい少女だったが、リリーの方が美人だなぁと若干失礼なことを考えていたら、返事が素っ気なくなる。
黒い少年は返事をしないまま、視線だけを動かした。

「あなた、とても有名よ。かわいくて変わった子がきたって。」
「そうなの?」
「ええ。皆あなたのファミリーネームを知りたがってるわ。」

「...あぁ!もうこんな時間ね!じゃあ、また後で。そろそろ席につかなくちゃ。」
「うん。ばいばい。Mrs,シニングも。」
「セシルでいいわ、またね。」

事情を知っている2人は、不自然ではなかったかとひやひやするが、肝心の2人は全く気にしていないようである。
リリーとセシルを見送り、いそいそとセブルスの手を引いて席へと向かった。

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